コロナ危機「まるでハイパーインフレ」 資本主義の行方

世界銀行調査部の元首席エコノミストで欧州出身の米経済学者、『大不平等――エレファントカーブが予測する未来』(みすず書房)の著者でもあるブランコ・ミラノヴィッチ氏。photo by Alexander P. Englert

「まるで、ハイパーインフレさながらだ」

世界銀行調査部の元首席エコノミストで欧州出身の米経済学者、『大不平等――エレファントカーブが予測する未来』(みすず書房)の著者でもあるブランコ・ミラノヴィッチ氏は、米国における新型コロナウイルス感染症の急拡大をこう表現する。

同氏は現在、ニューヨーク市立大学大学院センターの客員教授(格差・所得分配が専門)などを務め、昨秋には、新刊『Capitalism, Alone: The Future of the System That Rules the World』(『残ったのは資本主義のみ――世界を制するシステムの未来』未邦訳)を上梓。中国型の「Political Capitalism」(政治的資本主義)と、米国型の「Liberal Meritocratic Capitalism」(自由主義に基づく能力本位の資本主義)を徹底分析している。

3月後半、首都ワシントンDCのミラノヴィッチ教授に、ロックダウン(都市封鎖)中のニューヨークから電話でロングインタビューを行った。同氏の話では、3月上旬にワシントンDCの国際通貨基金(IMF)本部で講演を行った際は100人を優に超える聴衆が参加。新刊本にサインをしたり、人々と話したり、通常と変わらなかったという。

だが、その後、事態が急変し、IMFも閉鎖された。「わずか1週間で、ここまで状況が激変するようなことは歴史上、なかった」と、ミラノヴィッチ教授は驚きを隠さない。3月30日には、ワシントンDCでも自宅待機令が発表された。不要不急の外出をした市民は軽犯罪のかどで、90日以下の禁固か5000ドル(約54万円)以下の罰金、あるいは両方を科される可能性があるという、非常に厳格なロックダウン措置だ。

同氏がワシントンDCと併せて拠点を置くニューヨーク市は今や、コロナ危機の震源地と化した。感染者は約4万3000人。救急車などを求める、一日当たりの緊急通報件数が同時テロ時を上回る日もある。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、米東部時間4月1日午後6時半(日本時間2日午前7時半)現在、米国の感染者は21万3372人。死者は4300人を超え、その4分の1強がニューヨーク市だ。筆者が住むマンハッタンでも、人通りは激減しているが、ここ2週間でマスク姿のニューヨーカーが急増した。マスクをかけない米国文化を考えると、コロナ危機の深刻さが浮き彫りになる。

拙宅近くの食料品店では、レジの前に大きなカゴが何段も積まれ、買い物客がレジに近づけないようになっている。床には6フィート(約1.8メートル)ごとに銀色のテープが貼られ、買い物客も離れて並ばねばならない。「クレジットカード大国」米国では現金を使う人がまれなため、レジ係は買い物客のカードに直に触れないよう、分厚いゴム手袋をはめている。

トランプ政権は3月末日、こうした厳格なソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)措置を続けても、全米の死者が10万~24万人に達する可能性があると発表。今後2週間は「つらく、耐えがたい」ものになるという悲観的な見方を示した。

未曽有のコロナ危機は、グローバル経済や米中などの資本主義システムにどのような影響を与えるのか。ミラノヴィッチ教授のロングインタビューは本誌6月号(4月25日発売)の連載「『混沌の時代』を生き抜く思考」に掲載予定だが、その一部を先行配信する。
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文=肥田美佐子

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