世界の父たちよ聞け。ビル・ゲイツも「娘の保育園送り」担当だった

Bill & Melinda Gates Foundation / Prashant Panjiar インド、ビハール州にて。

女性の地位を包括的に向上させることが、世界全体の進歩につながる──夫ビル・ゲイツとともに世界最大の慈善団体の共同議長を務めるメリンダ・ゲイツは、著書『いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる』(THE MOMENT OF LIFT)の中で、女性や少女への国際的な支援が必要な理由を示し、解決策を提案している。11月に日本語版が刊行となった本書から抜粋し、世界が注目するメリンダの活動の一端を覗いてみよう。


孫が死にそうなときも、義父は嫁を外出させなかった


4、5年前、まだ私が世界でも特に貧困に苦しむ女性たちの家事負担の状況に注目していなかった頃、チャンパという女性の話を聞く機会がありました。

22歳のチャンパはインド中央部のある集落で、夫と義理の両親と3人の子どもとともに2部屋の小屋で暮らしていました。私たちの財団のインド支部で初の支部長を務めたアショク・アレクサンダーはある朝、複数の医療関係者とともにチャンパのもとを訪れました。チャンパのラニという名の2歳の娘が急性栄養失調になり、ただちに治療をしなければ死亡する恐れがあったためです。

アショクたちが到着すると、チャンパはラニを腕に抱えて家から出てきましたが、その顔はパルで覆われていました。パルはヒンドゥー教徒の特に保守層の女性が、男性との接触を制限するために身に着けるものです。チャンパは自分では読めない薬の説明書を手にしていて、アショクに差し出しました。

アショクは説明書を受け取り、ラニの様子を見ました。ラニは極度の栄養失調で足は棒のように痩せ、母親には対処のしようもない状態でした。通常の食事を口にすることもできなかったのです。栄養強化食を慎重に少量ずつ摂取させる必要がありましたが、その村の環境ではできません。頼れるのは地域の栄養治療センターだけです。そこに行けば、2、3週間で健康な状態に戻るはずです。しかしセンターへ行くにはバスに2時間乗らなければならず、ラニとチャンパは2週間は滞在することになります。チャンパの義父は、こう言ったそうです。「チャンパは行かせられない。家族の食事を作らなくちゃならないんだから」

チャンパは女性の医療関係者にさえパルを外さないまま、そう説明しました。子どもの命がかかっていても、義父には逆らえないのです。


Melinda Gates Awarded Otto Hahn Peace Medal In Berlin

アショクは、義父に会わせてほしいとチャンパに頼みました。そして、地面に寝転がりながら手作りの安酒を飲んでいる義父を見つけ、こう言いました。「治療をしなければお孫さんは死んでしまいます」

しかし義父は態度を変えません。「チャンパを行かせるなんて話にならない。2週間も家を空けるなんて」
次ページ > 女性の担う無償労働は男性の2倍以上

ForbesBrandVoice

人気記事