それは科学とアートの入り口。微小重力がもたらす新しい景色

左:JAXA きぼう利用センター長の小川志保/右:アーティスト・研究者の福原志保


小川:現在、JAXAの宇宙飛行士は7名いますが、確かにそういった能力が高いかもしれません。24時間365日、ISSは稼働していて、その間に「きぼう」だけでも日本以外に、アメリカをはじめさまざまな国の実験が分刻みでスケジューリングされていますので、なにかひとつでもずれ込むと大変です。もちろん事故が起きないように、地上で細かな手順書を作成し、研究者や企業の方たちと何度も仮説を立てて、シミュレーションを重ねたうえで宇宙へ行く。宇宙に携わる人間は皆、危機管理能力は相当に高いです。



福原:皆さん一丸となって共通言語を作って、それを共有して、チャレンジする。そして培った知恵や技術を蓄積することで、今まで見たことのない新しい風景を作り出す。よく「巨人の肩の上に立つ」と言いますけど、やはり科学やエンジニアリングの凄さはそこに感じます。そしてアートの世界にいる人間、アーティストというのは、もっとその姿勢から学ぶべきことがあると思うんです。なぜならアーティストはどうしても「これは私の作品」というサインをしたがるものだから。アートの文脈でも問いを立て、考察し、そこで蓄積してきたことを繋げていかないと、本当の意味で私たちが見たい風景や答えにはたどり着かないと思うんです。「みんなのナレッジ(知識)」にしていけたらいいと。

小川:まさに「きぼう」は、その利用を通じて「みんなのナレッジ」が育まれてほしいと願いながら活動してきました。そのうえで、我々は科学という専門性によった言語で難しく語ってはいないだろうか?という課題はあります。福原さんの言うように、本来科学はオープンなものであるはずが、逆に壁を作ってしまっているのではないか、と。

福原:その辺りは難しいですよね。科学的根拠と感情的な根拠や反応、そのどちらもケアしていかないと、発信する側の苦労も、受け取る側の感情も行き違ってしまうことになりますから。だからこそ使う言葉も繊細に、どうしても専門性が高まっていくものだとも思います。一方で、アートはその点は解放されているように見られます。なぜならアートは観る側一人ひとりの解釈に委ねるものだから、アーティストはあくまでボールを投げるだけに徹するところがあります。ただしこうした部分も含めて、これまで疑問を持たれずに継承されてきたものを改めて問い直す。ゼロからもう一度作り直すということもまた、アートの役割だと思って私自身はこれまで活動してきました。

小川:「これはこういうもの」という思い込みで動いてることも、我々のなかにはたくさんあるんです。その思い込みからできるだけ距離を置いて、例えば宇宙には空気がない。宇宙では身体が浮く。だから地上ではできないことができる。人間が本能でワクワクすることを科学やエンジニアリングによって繋いでいくことが「きぼう」の大きな役割だと思います。つまり論理を超えて互いに寄り添えるような、双方向の対話を深めていくことが、これからもっと宇宙が身近になっていく時代に、大切になってくるのではないかなと思っています。

JAXA’s N0.79より転載。
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取材・文=水島七恵 写真=森本菜穂子

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