「寝不足自慢」にピリオドを。働き方改革を後押しする睡眠の可能性

(左)ワーク・ライフバランスの小室淑恵 (右)ニューロスペースCEOの小林孝徳


小室:時代とともに、企業が業績を出すために必要なことが変わってきています。人口ボーナス期と人口オーナス期という言葉で説明しますね。

人口ボーナス期とは1960年代から1990年代前半の日本のような状態。若者がたくさんいて、高齢者が少ししかいないという人口比率だと、男性が職場、女性は家庭で性別役割分担をして、長時間労働して均一の組織をつくっていくとものすごい発展を遂げることができるんですね。労働力は有り余っているので人件費は安い。24時間営業のコンビニをたくさんつくればつくったぶんだけ発展できた時代でした。

そのときに重要なのは、ベルトコンベアーのようにミスができない緊張感がある、一種の軍隊のような組織であること。1960年代から1990年代前半にかけて日本はそれを完璧にやり切って結果を出して強い成功体験を積んできたので、時代が変わっても正しい戦略だと思い込んでいるケースが多い。90年代の半ばにはボーナス期は終わっていたんですけどね。



一方、オーナス期は、労働力が足りないけど人件費は高いため、いかに男女が短い時間で高い付加価値の仕事できるかが求められてくる。そのために一番大事なのは、多様な人材がリラックスしながら仕事に取り組むことです。それがイノベーションを生むからです。

よくメーカーなどはこれまでの製品に少し機能を追加して少し価格を上乗せすることで新商品として販売していますが、全く儲からないんですよね。本当は、人口オーナス期に成功するには、「たとえ倍の価格でも喉から手が出るほど欲しい」と思える製品をつくらなければ勝てません。最近の経営者が「イノベーション」を連呼する理由はそこにあるわけです。

しかしながらイノベーションは同質性の高い意思決定層で重々しい雰囲気の役員会議から起きるわけではないんですけどね(笑)。多様な人材が、フラットに、リラックスして議論しなければ、イノベーションは生まれません。仮に若手が「会議が長い」「この仕事はやる必要がないのでは?」と提案しても上司や役員が「そんなことない」と一蹴してしまう。それによって若手は意見を出さなくなってしまい、イノベーションの芽は摘まれます。

わたしたちのコンサルティングでは、今までの働き方を変えるための「カエル会議」で、発言するのではなく、付箋に意見を書いて出し合う方式を提案しています。一斉に付箋に書いて出し合うと立場は関係なく、フラットに議論ができるので。それによってひとつ業務改善ができると、意見を発信しやすくなる。同時に、反対意見を発言することは相手の人格を否定しているわけじゃないことにも気づくようになるんです。これが、Googleが提唱する心理的安全性ですね。

そうすると、わたしたちがファリシテートをしなくても、自ずとフラットに議論できるようになります。こうして、カエル会議を繰り返して残業時間を減らしていきます。そして意識して睡眠時間を増やしていくことで、業績が上がり続けている組織が増えています。成果を残すためには、フラットでリラックスできることが一番大事なんです。

睡眠の改善は、業績の向上につながる


小林:一方で、早く帰っても仕事のことが気になって眠れないことってあると思うんです。そういう緊張時に深部体温をコントロールするなり、覚醒しない環境をつくるなり、寝つきやすい状態を科学的につくっていくことが大事だと思うんですよね。そうすれば、ちょっとストレスが溜まっていても技術的に良い睡眠をとることができる。そうすれば、ポジティブな仕事ができるようになっていくので。眠りの技術を習得する機会を提供していくことがわたしたちの役目なのかもしれません。

小室:「職場のマネジメント」と「睡眠の技術」の両輪ですよね。そのふたつの視点がないと働き方改革は推進できない。
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文=田中嘉人 写真=帆足宗洋

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