最も影響力のある歌姫 テイラー・スウィフトが世界にもたらした変化

グラミー賞10回の受賞のみならず、同賞で最も栄誉のある「年間最優秀アルバム賞」も2度受賞しているテイラー・スウィフト。

TIME誌の「最も影響力のある100人」、「ツイッターで最も影響力のある人」などに選ばれ、多方面で活躍する彼女は、音楽業界、そして世界にどのような影響を与えてきたのか。

テイラー・スウィフトの輝かしい実績と受賞歴


これまでアルバム総売上枚数(ストリーミング数も含む)4000万枚を売り上げたテイラー・スウィフト。2019年にフォーブスが発表した「世界で最も稼ぐ女性ミュージシャン」ランキングでは、年収1億8500万ドルを稼いだとして首位を獲得した。

06年のデビュー以降、08年には2ndアルバム『Fearless』をリリースし、「第52回グラミー賞年間最優秀アルバム賞」を史上最年少で受賞。10年にリリースした3rdアルバム『Speak Now』は初週で104.7万枚の売上を記録し、ビルボード200で初登場1位を獲得した。

16年には第58回グラミー賞で「年間最優秀アルバム賞」「最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞」「最優秀ミュージック・ビデオ賞」を獲得。女性では史上初となる2度目の「年間最優秀アルバム賞」受賞者となった。

19年にはTIME誌の「最も影響力のある100人」に選出されたほか、ソーシャルメディア分析会社「ブランドウォッチ」による「ツイッターで最も影響力のある人」ランキング1位となり、公式インスタグラムアカウントのフォロワー数は20年3月現在で1.2億を超えている。


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一夜にしてアップルの方針を変えた、テイラー・スウィフトの言葉


テイラーの影響力を語る上で欠かせないエピソードのひとつとして、アップルが2015年から開始した音楽ストリーミングサービス「Apple Music」における、大きな方針転換がある。

当時アップルは、サービス開始時に3カ月の無料トライアル期間を設け、その間はアーティストに楽曲使用料を支払わないという方針を示していた。これに対し、テイラーはタンブラーに、自身のアルバム『1989』を「Apple Music」で配信しない理由として、“To Apple, Love Taylor”というタイトルでこう綴った。

「これは私の問題ではありません。これは、ファーストシングルをリリースして成功しても、3カ月の間、報酬を支払われることのない新人アーティストやバンド、最初のシングルのロイヤリティで借金を返済しようとしている若きソングライターの問題なのです。新しいものを生み出す業界の先駆者であるアップルのクリエイターたちのように、新しいものを生み出そうと休むことなく仕事を続けるプロデューサーたちの問題です」

そして、「私たちアーティストはタダでiPhoneが欲しいとは言いません。私たちにもタダで音楽を提供してほしいとは言わないでください」とも綴った。

その数時間後、アップルはテイラーの主張通り、トライアル期間中もアーティストらに報酬を支払う方針を発表した。それを受け、テイラーも「Apple Music」で『1989』を配信することを決断。

テイラーが真摯に、かつ絶妙な言葉選びで、挑戦者といえる立場の現状や理不尽を訴えることがなければ、今の音楽ストリーミングサービスや音楽業界の在り方は、まるで違うものになっていたかもしれない。

テイラー・スウィフトの政治的影響力


2018年10月、それまで政治的発言を一切してこなかったテイラーが沈黙を破り、インスタグラムで、中間選挙で民主党候補に投票することを明言した。

初めて政治的発言を行ったことに対し、テイラーは「これまで自分の政治的意見を公にすることには消極的でしたが、過去2年間に私の人生や世間で起きた様々な出来事により、違う考えを持つようになりました」と理由を明かしている。

また、共和党のマーシャ・ブラックバーンを支持できないとした上で、セクシャルマイノリティの権利やジェンダー・人種上の平等の獲得、人種差別の撤廃などに向けて戦う意向を示した。

非営利団体「Vote.org」は、テイラーの政治的発言後、わずか24時間以内に6万5千件もの新規有権者登録があったこと、その新規登録者の6割以上がテイラーのファン層と重なる18歳から29歳だったことを明かし、その衝撃はテイラーのファンのみならず、アメリカ全土へと広がった。

ミュージックビデオに秘められたメッセージ


2019年にリリースされたアルバム『Lover』に収録された楽曲『The Man』。テイラーが「もし自分が男だったら」という視点で作ったというこの曲は、ミュージックビデオも大きな注目を集めた。

テイラーはこのミュージックビデオで初監督を務めたほか、特殊メイクで男性に扮して出演。ビデオには、男性が電車内で足を大きく広げて座る様子や、周囲を気にせずにタバコを吸う様子、ビキニの女性たちとともにパーティーに興じる姿や、少し子どもの世話をしただけで称賛される姿などが描かれている。

女性が同じことをしたら、全く別の受け取られ方をするであろう行為のオンパレードであり、テイラーは皮肉をこめて男性優位社会への問題提起を行っている。

また、20年に『The Man』がシングルカットされた際に公開された歌詞ビデオでは、主人公の女性が男性優位社会の中で葛藤しながら戦う様子がアニメーションで描かれている。

テイラーは、SNSなどを介した直接的な発信だけでなく、楽曲のリリース日や歌詞、ミュージックビデオなどの中に様々なメッセージを秘めることでも知られる。次はどのようなメッセージが、世界に衝撃や変革をもたらすだろうか。

文=野田美香 写真=gettyimages

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