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2020.04.01

東京五輪延期が及ぼす、テレビ界への破壊的な影響

Tomohiro Ohsumi/Getty Images

「2020年東京夏季五輪」を、2021年に延期する。前例のないこの決定は、新型コロナウイルスのパンデミックが世界中で日常を混乱させていることを示す、これまでで最も大きな徴候のひとつだ。

感染者数が全世界で70万人に迫っている現状を見る限り、近いうちに普段どおりの生活に戻れるとは考えにくい。そのため、スポーツ関連のカレンダーでは無期限の空白が続いている。

経済活動の突然の停止は、ほぼすべての産業に痛手を与えている。毎年数十億ドルの収益をあげる「大帝国」であるスポーツテレビ放送界も、例外ではない。

現在のテレビで、スポーツが最も価値ある資産であるのは間違いない。というのも、人々がライブで視聴する番組は、いまやスポーツしか残されていないからだ。つまり、視聴者はコマーシャルを確実に見ていて、企業はその注目を得るために大金を払うわけだ。

NCAA(全米大学体育協会)が男女のバスケットボール・トーナメントを中止したのに伴い、CBSとターナー(Turner)は、男子トーナメントの放映権獲得のために支払った7億8500万ドルの損害を被った。「マーチ・マッドネス(3月の狂乱)」と呼ばれるNCAAバスケットボール・トーナメントは、2018年には10億ドルの広告収入を生み出していた。CBSとターナーがそれを失うことになるのも間違いない。

このトリクルダウン効果は、NCAAの各種プログラムにも影響を与えるかもしれない。なぜなら、NCAA歳入全体のおよそ72%は、マーチ・マッドネスのテレビ放映契約から生まれているからだ。

だが、新型コロナウイルスの影響を最も大きく受けるテレビネットワークといえば、NBCだ。NBCはすでに、競馬の「ケンタッキー・ダービー」、テニスの全仏オープン、NHL(北米プロアイスホッケーリーグ)の「スタンレーカップ・ファイナル」の延期や中止に直面していたが、そこに五輪延期の発表が追い打ちをかけた。

五輪を失ったNBCは、推定12億ドルの広告収入も失うことになる(ついでに言えば、今回の延期により、五輪の開催費は27億ドル増加すると見込まれている)。

ジョージタウン大学マクドノー経営大学院で商法を研究するトーマス・クック教授は、NBCなどのメディア企業は、2020年を「失われた1年」として考えなければならないだろうと述べている。

クックは電話取材で、「(広告主は)イベントの時間を買ったが、そのイベントが実施されない。そうした場合、契約法に従えば、実施されないイベントに出す広告料を支払う義務はない。これはわかりきった話だ」と述べた。

「これによりメディアは、空白の広告枠を抱えることになる。誰がその枠を埋めるのだろうか? それに、その枠を埋めようとして必死になる前に、現在の環境では、旅行もできないし、買いものもあまりできないことを考えてみてほしい。広告を出したい人がいたとしても、この状況では思いとどまるだろう。これを2021年に取り戻す方法はない。その結果、(2020年は)失われた1年になるだろう」
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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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