感染者数が全世界で70万人に迫っている現状を見る限り、近いうちに普段どおりの生活に戻れるとは考えにくい。そのため、スポーツ関連のカレンダーでは無期限の空白が続いている。
経済活動の突然の停止は、ほぼすべての産業に痛手を与えている。毎年数十億ドルの収益をあげる「大帝国」であるスポーツテレビ放送界も、例外ではない。
現在のテレビで、スポーツが最も価値ある資産であるのは間違いない。というのも、人々がライブで視聴する番組は、いまやスポーツしか残されていないからだ。つまり、視聴者はコマーシャルを確実に見ていて、企業はその注目を得るために大金を払うわけだ。
NCAA(全米大学体育協会)が男女のバスケットボール・トーナメントを中止したのに伴い、CBSとターナー(Turner)は、男子トーナメントの放映権獲得のために支払った7億8500万ドルの損害を被った。「マーチ・マッドネス(3月の狂乱)」と呼ばれるNCAAバスケットボール・トーナメントは、2018年には10億ドルの広告収入を生み出していた。CBSとターナーがそれを失うことになるのも間違いない。
このトリクルダウン効果は、NCAAの各種プログラムにも影響を与えるかもしれない。なぜなら、NCAA歳入全体のおよそ72%は、マーチ・マッドネスのテレビ放映契約から生まれているからだ。
だが、新型コロナウイルスの影響を最も大きく受けるテレビネットワークといえば、NBCだ。NBCはすでに、競馬の「ケンタッキー・ダービー」、テニスの全仏オープン、NHL(北米プロアイスホッケーリーグ)の「スタンレーカップ・ファイナル」の延期や中止に直面していたが、そこに五輪延期の発表が追い打ちをかけた。
五輪を失ったNBCは、推定12億ドルの広告収入も失うことになる(ついでに言えば、今回の延期により、五輪の開催費は27億ドル増加すると見込まれている)。
ジョージタウン大学マクドノー経営大学院で商法を研究するトーマス・クック教授は、NBCなどのメディア企業は、2020年を「失われた1年」として考えなければならないだろうと述べている。
クックは電話取材で、「(広告主は)イベントの時間を買ったが、そのイベントが実施されない。そうした場合、契約法に従えば、実施されないイベントに出す広告料を支払う義務はない。これはわかりきった話だ」と述べた。
「これによりメディアは、空白の広告枠を抱えることになる。誰がその枠を埋めるのだろうか? それに、その枠を埋めようとして必死になる前に、現在の環境では、旅行もできないし、買いものもあまりできないことを考えてみてほしい。広告を出したい人がいたとしても、この状況では思いとどまるだろう。これを2021年に取り戻す方法はない。その結果、(2020年は)失われた1年になるだろう」