「改正保釈法」で犯罪が急増したニューヨークの失敗

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前述したように、ニューヨーク市の犯罪は昨年比2割増しだが、殺人やレイプなどの暴力が伴う凶悪犯罪は、それぞれ2割ずつ減っている。ところが、自動車盗難は7割増、単なる強盗は4割増と、あきらかに異常事態を迎えている。

ニューヨーク市を中心にカバーする「ピックス・イレブンニュース」では、コロンビアからやってきた麻薬の密売人が釈放されるまでの様子をカメラで追っていた。それによれば、検察側は、この密売人が過去にコロンビアから若い女性をアメリカに連れきて人身売買をした前科を挙げ、地域の治安に大きな不安を与えるとしたが、裁判長が、「あなたにまったく賛成だが、法律が変わった以上、私としてもどうしようもない」と異議を却下し、釈放していた。

この犯人はたまたまニューヨークで麻薬を密売しているところを捕まっただけなので、保釈中に他州やコロンビアに逃げてしまうにちがいないと、ピックス・イレブンニュースの記者は報じている。

拳銃所持がなければ即釈放


アメリカの刑事訴訟法は、基本的に陪審員による評決を中心としているが、保釈については完全に裁判官の判断に委ねられている。一般市民にしてみれば、1つ1つの犯罪の刑期の長さにではなく、むしろ、犯罪者に安易に犯罪を繰り返させない仕組みになっているかどうかにこそ関心がある。今回の法律改正は、裁判官に判断をさせる裁量を奪ったことになり、犯罪の増加が懸念されていた。

そうしたなかで、今回、40歳の男が火曜日に銀行強盗を行ない、強制保釈され、週末にまた銀行強盗をしたという事件があり、ニューヨーカーを激昂させた。

この男は、詐欺などの重罪を前科として持っていたが、テラーカウンターに近寄り、「俺は拳銃を持っている。金を出せ」とメモを差し出し、紙幣の束を奪ったところを逮捕された。しかし、実際には拳銃所持をしていなかったので、強制保釈で自由の身となった。その数日後、別の銀行に同様の手口で強盗に入り、金を奪った。逮捕され、拳銃がなく、やはり釈放された。

なにかと独自色が強く、全国に先駆けて新法を制定しようとするニューヨーク州だが、この事件を受けて、クオモ知事を選挙で支持した民主党員のなかでもあまりにも人道主義が行き過ぎたとして意見が割れ始めた。トランプ大統領も、この改正法と改正法をもちこんだ民主党を正面から攻撃してきていたので、ますます大統領の民主党批判が強まり、民主党は反論に窮する見通しだ。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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