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「個の時代」に、生きるチカラとしての“営業力”を

Westend61 / Getty Images

私はこれまで、一部上場企業を中心として、3万人以上の営業パーソンに対して、コンサルティングや研修、講演をしてきました。担当したコンペでも、8年間「無敗」の状態が続いています。

前回のコラムでは、なぜ個の時代に営業力が必要なのかを説明しました。今回は「営業力は技術」という側面についてお話したいと思います。

営業というと、キャラクターや精神論で語られることが多いと思いますが、私は「営業力は技術だ」と考えています。特に、スマホがいまのように普及してからは、営業を取り巻く環境は大きく変わりました。

「みんなが欲しいもの」があった時代は、営業をかけなくとも、モノは売れていました。例えば、スマホが登場した当初は、店頭で「どうしても欲しい端末」を見かけたら、多少営業スタッフに不満を覚えても、「買わない」とはならなかったはずです。

しかし、スマホもすっかり普及してきた最近では、商品力だけでお客さまを惹きつけることは、ほとんどできなくなってきました。商品に関する情報や購入の選択肢も爆発的に増えており、営業に不満があっても、気にせずその場で買うようなお客さまは減少しています。

何より、お客さま自身も何が欲しいのかわからない状態になっています。

スティーブ・ジョブズの名言に「人は、形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」というものがあります。お客さまがそのような状態では、無理に営業しても、買っていただくことはできません。

昔より売れなくなってきたから値段を下げる、そういった負のスパイラルに陥って苦しんでいる営業の人間も、私はたくさん見てきました。しかし、お客さまと営業する側の「ズレ」を正しく解消すれば、値下げ以外のやり方で「売れる」良い循環をつくれるのです。

「勝率8割の営業」に出会った私の体験


具体的な例でお話ししましょう。以前、私が自宅の引っ越しを行った際、3社に見積もりを依頼しました。それぞれの営業担当者に話を聞きましたが、うち2社は時期や荷物の数、引っ越す場所などを聞いただけで、10分もしないうちに見積もりを出してきました。

しかし、最後に来た3社目のAさんは、いきなり見積もりを出すこともなく、「家の中を見せて欲しい」と言ってきたのです。私は「前の2社とはちょっと違うな」と思いながら、家のなかをAさんと歩いてまわりました。

そこで、妻も交えて会話が始まり、Aさんは私たちにいろいろと質問を始めました。キッチンにあった義母からの贈り物である食器棚に話が及ぶと、Aさんは「万が一のことがないように、食器は専用のダンボールで運びましょう」と言い、妻は「きちんと気をつけてくださるんですね」と嬉しそうに応えていました。

また、私の仕事の話になると、「そんなにお忙しいのであれば、引っ越しの片付けは負担がかからないほうがよいですね」と言いながら、段ボールの引き取りサービスを提案してきました。

私は、Aさんの細やかな対応に接しているうちに、「この人にお願いすれば、面倒がなくて楽だし、不安もないからいいな」と好感を抱き始めました。

最後に見積もりを出してもらうと、他の2社よりも高い料金でしたが、私たちは気持ちよくAさんの会社に引っ越しを頼むことにしました。

そのとき、私は、「ああ、自分はただ引っ越しをしたいのではなく、面倒や不安のない引っ越しをしたいんだな」と気づきました。

それは、最初の2社との話し合いでは、まったく及びもつかない考えでした。むしろ、いま思い返すと、すぐに電卓を叩いて見積もりを出してきた最初の2社は、「営業の人間が、ただ価格競争という面だけで引っ越しを受注しようとしていたのだな」と感じるほどでした。

帰り際、Aさんに「営業としての勝率は何割くらいですか?」と聞くと、にっこり笑って「そうですね、8割は超えています」と答えました。

文=高橋浩一

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