意図的な下落
2008年との重要な違いのひとつは、言うまでもなく、今回の下落が意図的なものだという点にある。経済活動が停止しているのは、通常の需要がないからではなく、意図的に新型コロナウイルスを抑制するためだ。
2008年には、維持できる可能性がきわめて低いビジネスが止まった。これは重要な違いだ。住宅バブルの泡に包まれていた経済活動の多くは、まったく無謀なものだった。それに対して、現在活動停止を余儀なくされているビジネスの多くは、航空会社であれ、着席形式のレストランであれ、経済にとって必要なものだ。
問題はもちろん、そうした諸々の経済活動が以前の平常運転に戻れるのか、そしてどれくらい早く戻れるのか、ということにある。2008年の課題は、実質的な収入をもたない人に複数の住宅ローンを提供するような極端な経済活動を復活させないようにすることにあった。それに対して現在の課題は、止まっている経済活動をどれだけ早く復活させられるかという点にある。
まだそこまで行っていない
もうひとつ留意しておくべきなのは、2008年と比較すると、投資家はどうしても悲観的になるということだ。そもそも2008年の危機は1930年代を思い出させるものであり、稀な出来事だった。2020年の危機がどこへ向かうのか、それを示す詳しいデータはまだほとんど得られていない。
たしかに、そのデータの空白を埋めているのは、おそろしい予測だ。だが、予測とデータには、途方もなく大きな違いがある。最低値という点で見れば、結局は2008年よりもましだった弱気市場もたくさんある。実際には、ほとんどがそうだ。つまり、2008年との比較は、まちがいなく史上最悪レベルの市場環境との比較だということだ。そこまでの事態にはならないかもしれない。
また、どこまで悪くなるのか、最終的に市場の底値がどこまで落ちるのか、ということばかりが注目されがちだが、市場の歴史には明るい教訓もあることを忘れてはいけない。たしかに、2008年になぞらえるなら、これから先、市場は最低の域まで下落するかもしれない。だが、同じパターンをたどるなら、2008年と同様の下落局面で買いに出た投資家は、1年ほどでプラスマイナスゼロに戻し、投資した資金は6年後には2倍になっているだろう。この筋書きは、市場最悪レベルの市場の急落と、その後の回復を前提にしている。極端な変動は諸刃の剣だ。市場は急落するが、回復も速くなる。
つまり、長期的な視野をもつ自制心のある投資家にとって2008年から学べることは、事態が悪化する可能性はあるものの、本物のパニックが起きる環境はしばしば、本物のチャンスにもなり得るということだ。