下落のペースと政策反応がはるかに速い
今回の市場危機のきわめて独特な一面は、急激な下落のスピードだ。S&P 500は、1カ月で30%下落した。2008年の危機では、最高値から30%下落するまでにほぼ1年かかった。2008年の下落を「トヨタ・カムリ」とするなら、今回の下落はフェラーリだ。
政府の反応も速い。米連邦政府はすでに、実質FF(フェデラル・ファンド)金利をゼロに引き下げ、流動性を供給するためのさらなる措置もとっている。政府による景気刺激策も、まもなく実施されるようだ。2008年のときと比べて速いペースで事態が動いている。
企業価値評価
企業価値評価(バリュエーション)も、考慮すべき重要なポイントだ。今回はおそらく、シラーPERを見るのが最良だろう。これは、過去10年間の純利益の凹凸をならして求めた長期的な平均純利益で計算したPRE(株価収益率)のことだ。
この方法が役に立つのは、現時点ではまだ2020年の利益がどのようになるかはわからず、CEOが、うまく理屈のつけられるあらゆる損失を認め、一切合切を2020年の損益に計上しようとするかもしれないからだ。その場合、利益が2019年よりも大幅に少なくなり、分母が小さくなって、PREがかなり上昇する可能性がある。これについても、2008年に同じようなことが起きた。
シラーPERなら、この問題を調整できる。現在の推計では、シラーPERは22倍となっている。2008年の危機の時には、25倍から15倍に低下した。また同様のことが起きれば、本稿執筆時点では2300前後であるS&P 500の最低値は1600前後になるだろう。とはいえ、はっきりさせておきたいのだが、仮にその低下が現実のものになれば、2008年に匹敵する史上最悪レベルの市場下落ということになるだろう。現時点では、まだそこまで行っていない。
データ不足
2008年の危機後半との重要な違いのひとつが、今回の危機では経済データがまだあまり存在しないことだ。それに対して、前回の景気後退ではデータが徐々に進展し、見通しがいまよりもはっきりしていた。
セントルイス連邦準備銀行のジェイムズ・ブラード(James Bullard)総裁は、2020年第2四半期の失業率を30%と予想している。連邦準備銀行の専門的スキルをもってしても、現時点では、その予想があてずっぽうにすぎないのは明らかだ。
経済的影響の詳細はわからないが、失業率のような主要指標に関しては、いま私たちが目にしているのは、緩やかだが長引く低下ではなく、急激だが一時的な下降だと期待したい。