ビジネス

2020.03.31

初期に優良顧客を獲得することで「キャズム」は乗り越えられる|トレジャーデータ 芳川裕誠

トレジャーデータ 芳川裕誠




アメリカと日本で異なる事業グロースへの意識


──アメリカのスタートアップは利益確保を急がない、ということでしょうか。

アメリカのSaaS企業は、キャズムを超えるための投資をIPO時でも構わず加速させるため、結果的に成長モメンタムを維持したまま大きなサービススケールを実現できることが多いです。あのセールスフォースドットコムですら、最近まで赤字だったのが好例です。

要は5年、7年先といった長期的視点を持ち続け、「マーケットのスタンダード」を本気で目指すこと。ここに関してはアメリカ企業の方が秀でているなと思います。

──起業家の意識のみならず、投資家のSaaS型ビジネスに対する理解度にも差がありそうです。

日本で成長投資を続けるスタートアップに対して「赤字を垂れ流す」という表現がよくなされますが、これは正しくありません。

SaaS型ビジネスはビジネスモデルが確立さえしていれば、その赤字は長期的には回収できるのです。むしろ短期的な黒字化と最終的なスケールは相反することが多いのです。

例えばACV(年間平均単価)が$1M、グロスマージン(売上総利益)が80%、月ごとのチャーンレート(解約率)が1%、年間に換算すると12%のプロダクトがあるとしましょう。

計算を単純化すると、顧客が平均して解約する約8年間の間に、1顧客あたり$6.4MのLTV(顧客生涯価値)があるという試算ができます。

このビジネスにおいて、例えば新規顧客を獲得するCAC(顧客獲得単価)が$2Mだとしましょう。

この場合の経営判断としては、「$2Mの投資をして8年間の$6.4Mを獲得するか、投資をせず今期の利益$2Mを確保するか」ということになります。

すごく単純化した例ですが、日本の企業の多くは「利益を確保し上場する」ことを選び、アメリカの会社の多くは「投資をして8年間の成長を確保する」ことを選びます。なぜなら、その方が資本市場に認められるからです。

この起業家および資本市場のマインドの差が、結果的に世界的なSaaS型サービスの多くがアメリカから誕生している要因になっているのではないかなと感じています。

連載:起業家たちの「頭の中」
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文=山崎満久 提供元=Venture Navi powered by ドリームインキュベータ

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