ビジネス

2020.03.31

初期に優良顧客を獲得することで「キャズム」は乗り越えられる|トレジャーデータ 芳川裕誠

トレジャーデータ 芳川裕誠




SaaS型ビジネスが超えるべき「キャズム」の存在


──創業初期から米国でも日本でも大企業にサービスを採用されています。これらの大企業を巻き込む上で大切なことはなんでしょうか?

「ゼロイチ」フェーズの顧客は、ジェフリー・ムーア氏の”Crossing the Chasm”で言うところの「イノベーター(上位2.5%)」なので、企業ブランドに関係なく、サービスの質のみで顧客になってくれます。

気をつけるべきなのは、本書で「イノベーター」の次のステージとして語られる「アーリーアダプター(上位16.5%)」と「アーリーマジョリティ(上位50%)」の間には「キャズム」が存在していること。このキャズムを乗り越えるために、アーリーアダプターとなる顧客のロイヤリティやユースケースのリピータビリティを高めておくことが重要です。

私たちにとっては、国内なら無印良品様、米国ならワーナーブラザーズ様といった優良顧客をアーリーアダプターとして初期に獲得できていたからこそ、助走をつけてキャズムを超えることができました。

──目指すビジネスサイズのスケール感に関しては、日米のスタートアップで差がありそうです。

日本のSaaS型ビジネスのスタートアップを見ていてもったいないなと思うのが、IPO段階で利益を確保する意識が高すぎること。

例えば売上10億円、利益1億円といった業績数値が日本ではIPOの目安とされていますよね。これがアメリカの場合だと、だいたい売上100億円・大きく赤字、といった状態でIPOすることが多いのです。

なぜこの違いが生まれるかというと、先ほどお話したキャズムを超える意識の差だと思うのです。

多くのSaaS型ビジネスはアーリーアダプターを顧客化できれば、売上5〜10億円は見えてきます。

しかしながら、次のアーリーマジョリティを顧客化するまでに存在する大きなキャズムを超えるためには、相応の投資が必要となってきます。

本来であれば、キャズムの先にこそ大きなビジネスチャンスが待っているはずなのに、日本企業の場合は上場時の利益確保を急ぐあまり投資が十分に行えず、結果的に上場後にキャズムにぶち当たって超えられないケースが多いのです。
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文=山崎満久 提供元=Venture Navi powered by ドリームインキュベータ

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