「同調圧力に屈せず、多くの異論を」岩田教授に聞くコロナ危機対策

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──8割が軽症の一方で、感染者の2割が入院、およそ5%に集中治療が必要になると言われています。ニューヨーク州(人口約1900万人)のクオモ知事は、ピーク時には14万床のベッドと人工呼吸器3万台が必要になると連邦政府に支援を呼びかけました。日本臨床工学技士会などが2月に実施した調査によると、日本で使える待機中の人工呼吸器は国内で約1万3000台。都内で約1800台。東京都は4000床を目指してベッドの準備をしています。人口も状況も異なりますが、十分な準備ができているのでしょうか。

ニューヨークは感染者数が一気に増加したために、多くのベッドと人工呼吸器が一度に必要になった。東京で足りなくなるのかどうかは分からない。一度に多くの患者が出ないようにすれば足りるかもしれない。

そもそも、人工呼吸器を買ってベッドを増やしても、使える医療従事者がいなければ、受け入れる患者は増やせない。ここでも人材は即席には作れない。専門技術を身につけるのは時間がかかる。これも地力が問われるので、いまから急に増やすことはできない。

このような場合に重要なのは、引き算の論理だ。例えば、新型コロナの患者の8割は軽症者だが、現在は指定感染症になっているため原則入院隔離措置が必要になっている。軽症者は入院させず、重症者にケアを集中させるべきだ。

日本の医療には無駄が非常に多く、医療従事者に余裕がない。無駄を排除することで余力をつくり、キャパシティを増やせる。

──ダイヤモンド・プリンセス号で隔離措置の不備を訴えた岩田教授の動画は、世界のメディアで取り上げられ、反響を呼びました(その後、当初の目的を達成できたとして動画は削除)。一方で、「一生懸命やっているのに批判するな」というような、発信自体を否定する声もありました。

今でも批判を受けるし、LINE外しと同じような形で学会のグループから黙って外す、「いじめ」のようなこともあった。同調圧力に合致しない人をいじめる文化があるので、自分の意見を自分の名前で発信するのは難しいし、勇気がいる。しかし、危機の時こそ意見をたくさんいって、議論することが大事だと思う。

英国では当初、強力な都市封鎖をせずに国民に免疫をつけさせる「集団免疫」という対応を取ろうとした。しかし、その後多くの批判を受けて、他の欧州諸国と同じような対応に転換した。議論が二転三転したが、科学にもとづいて対応するという点ではぶれなかった。失敗を認知して方針転換ができた。

日本は「みんなで話して決めたことだから」と失敗を押し通してしまう。ダイヤモンド・プリンセス号も失敗しなかったと言い抜けようとしている。感染者のピークをなだらかにするというプランAの計画がうまくいっている間はいいが、Aが失敗した時の代案となるプランBがない。Aの失敗を予測し、認めることができない。

失敗の基準がなければ、何が起きても失敗にはならない。失敗を認知して方針を変えられるのは、プライドと気概、そして正義感を持ったプロフェッショナルだ。

──新型コロナウイルスはまだまだ分からない点が多く、「◯◯が効く」といった様々な情報が出回っており、何を信じるべきか戸惑ってしまいます。

不確かさに耐えることが大事になる。分からないことは、分からない。無自覚で中途半端に分かったつもりになっているのが一番失敗する。分からないという事実に耐えられるかどうか、一人ひとりの成熟とプライドが試されている。

編集=成相通子

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