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感染症の専門家から見た新型コロナウイルスのいま


ピークなんて見たくない…?事実に誠意を


そして、ここが肝心なのだが、ピークを下げるという理念が、「ピークを下げなければいけない」という観念になり、「ピークは下がっているはずだ」という確信になり、「ピークは起きていないんだ」という自己暗示に転じてはいけないということだ。プランAに固執する日本あるあるの失敗のパターンで、ダイヤモンド・プリンセスでは「二次感染が起きてはいけない」が「起きているはずがない」に転じてノーガード下船を許してしまった。ピークが起きてはいけない、がピークなんて見たくない、にならないように現実を見据える必要がある。たとえ、それが我々の見たくない不都合な真実であったとしても。

繰り返す。演繹法は帰納法で補完するのがこの業界の常識だ。とはいえ、PCRは偽陰性が多くて感染の状態を把握する力に乏しい。「なんでも検査」が間違っているのはそのためだ。しかし、免疫グロブリンIgM、IgGを測定する血清検査であれば、「集団における感染の状態」はより正確に把握できる。これとて、無謬ではない。早期感染は見逃すので、個々の症例には使いにくい。HIV早期感染を見逃すのはこのためである。個々の事例に抗体検査が有用かどうかは、未だ検証を待たねばならないが、ポピュレーションベースで疫学調査をするのには向いている。ざっくり言えば、今東京で「感染が蔓延している」のか、それは杞憂に過ぎないのかを確認できる。前例はあって、ロンドンの血清検査で09年パンデミックインフルエンザが従来予測の10倍起きていたことが血清検査でわかっている。抗体検査はアウトブレイクのあとで事後的に行うことが多いが、慢性的パンデミックになりつつあるCOVID-19については、「今」こそが検証のポイントといって良い。

英国はさらにアグレッシブだ。家庭で抗体検査を行い、「感染者である」とわかればそれを自宅での自己隔離の根拠に使おうというのだ。ロックダウンが起きている中で、検査陰性は「自己隔離不要」を意味しないため、その戦略に穴はある。が、考え方としては「感染全体を抑え込みたい」というもので、検討の価値はあると思う。

東京でどのくらいの感染が起きているか、帰納法的確認は必要であり、有用だ。その結果がどうなるかは預言者ではないぼくには分からない。が、どんな結果が出てきても、それを受け入れ、場合によっては自説を曲げ、プランBに移行することにも躊躇しない態度が科学者には必要だ。科学者は、首尾一貫していないことにかけて、首尾一貫していなければならないのだ。形式においては朝令暮改であっても、プリンシプルやプロフェッショナリズムにおいて曲げてはならないのだ。事実に誠意を。

文=岩田健太郎(自身のフェイスブック投稿より)

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