このような中で、日本政府が2010年から第三国定住という制度の枠組みで受け入れ始めたミャンマー難民は、来日前に大変包括的で厳格な健康診断を確実に受け、飛行機に搭乗する直前までプロの医師が1人1人の体調をチェックした上で、胸部X線写真まで持参の上で来日しています。
その健康診断の内容は、基本的にはアメリカの疾病予防管理センター(CDC)の基準を参考にしつつ、国際機関の基準と日本政府の基準を反映した内容で、極めて包括的かつ厳格なものです。
また難民達は、特に出身国(例えばミャンマー)等で極めて非人道的な扱いを受けていたため、予防接種などを受ける機会がなかった方々もいますので、日本の厚生労働省の基準に合わせた予防接種も受けてから来日しています。
なぜこのようなことを断言できるかというと、実は私自身が国際機関の職員として、CDCと国際移住機関と日本の厚生労働省の基準の間のすり合わせを行い、来日する難民一人一人の健康診断と予防接種の確実な実施を監督していたからです。
もちろん、そのような包括的で厳格な健康診断と予防接種を、3000万人余りの外国人観光客全員に義務付けることは、現実的ではない、あるいは日本の観光収入を減らすことになる、という批判・懸念もあるでしょう。
しかし、アフリカや一部の途上国では、出身国のいかんにかかわらず、入国しようとする外国人には通称「イエローカード」と呼ばれる世界保健機構(WHO)監修のワクチン接種記録を提示しないと入国許可が下りない制度を採用している国が多くあります。実際筆者も、国連勤務時代に出張でケニアやエチオピアに入国する必要があった際には、このイエローカードの提示を毎回義務付けられました。
観光収入・経済活動と公衆衛生の間のバランスをどう取るのか。今世界各国が頭を抱えている問題で、全員がハッピーになる「解」はないのかもしれません。
私自身は基本的には、モノ・カネと同様ヒトの国境を越えた移動は、受け入れ国も出身国もまた移動する人々自身も豊かにすると信じています。その一方で、「感染症対策が水際できちんと行われていないのかもしれない」といった不安感が社会に広がると、外国人に対する差別や偏見を助長してしまう危険もはらんでいます。
何が必要で、何が可能で、何がフェアなのか。これを機会に、今ある制度と現状を再度洗い出し考え直してみたいものです。
連載:世界と日本の難民・移民問題
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