「有事の金」は神話だったのか? 現在の金相場が低調な理由

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市場が下落傾向にある時期に、ポートフォリオを守る資産として有用とされているのが金(ゴールド)だ。多くの学術研究も、こうした方針の正しさを裏付けている。例えば、ダーク・バウアー(Dirk Baur)とブライアン・ルーシー(Brian Lucey)による研究では、アメリカとヨーロッパの市場について、株価や債券価格と金価格の関係を検証したところ、投資家にとって金がリスク軽減に役立つとの見方をおおむね裏付ける結果が出た。

とはいえ、3月に入って起きている現在の急激な下げ相場では、金価格の推移は低調だ。例えば過去1か月を見ると、代表的な株価指数のS&P500は約30%下落しているが、金の価格も10%下がっている。これは予想外の値動きだ。金は完璧なヘッジとは言えないが、株式市場が明らかに暴落している時に、金の価格が下がるのは異例のことだ。では一体、何が起きているのだろう?

急速に進む資産の現金化


今回の危機的状況の特徴として、経済活動があまりに突然に鈍化したため、バランスシートに注目が集まっている点が挙げられる。景気が後退局面に入ると、消費者が物品の購入を手控え、企業が在庫を圧縮するため、経済活動が多少スローダウンするのはよくあることだ。だが今回は、新型コロナウイルスへの対応策として、多くの企業が強制的に休業、あるいは営業時間の大幅な短縮を迫られている。

売り上げ減も企業にとって決して歓迎すべきものではないが、売り上げがゼロになるのは全くレベルの違う問題だ。この場合、企業は今すぐ資金が必要になる。市場の暴落は、この点を反映しているのかもしれない。是が非でも現金が必要であるため、手元にある資産をすべて売りに出しているというわけだ。

この見方に基づけば、金も、この投げ売りの流れに巻き込まれたと考えられる。経済があまりに突然の打撃を受けたため、どうしても現金が欲しいという切迫感は、過去の下げ相場よりも強い。今の危機への対応が一段落し、政府の支援策が確立されれば、こうした状況にも変化があるかもしれない。だが今のところは、どの資産よりも現金が重んじられているのは明白だ。

ドル高の進行


もう1つの要素は、ドル高の進行だ。ある意味では金は、ユーロや英ポンドのような通貨の1つとも考えられる。すべての通貨ペアと同様に、為替は、双方の通貨に何が起きているかに左右される。

米ドルとユーロの為替レートの動きを理解するには、ドルとユーロ、両方におけるトレンドに目を配る必要がある。ドル建て価格で見た金の値に関しても、同じ理屈が当てはまる。金の米ドル建て価格を検証すると、3月初旬以降、貿易加重後の米ドルの実質レートは3%以上伸びている。これは大きな意味を持つ。このドル高の結果、他のすべての条件が同じだとしても、金の価格は3%下落することになる。これは金の問題をすべて説明するものではないし、米ドル建てだけではなく、ほかの主要通貨についても金が下落している可能性も高い。とはいえドル高の進行は、金の価格下落を助長する要素となっている。
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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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