とはいえ、3月に入って起きている現在の急激な下げ相場では、金価格の推移は低調だ。例えば過去1か月を見ると、代表的な株価指数のS&P500は約30%下落しているが、金の価格も10%下がっている。これは予想外の値動きだ。金は完璧なヘッジとは言えないが、株式市場が明らかに暴落している時に、金の価格が下がるのは異例のことだ。では一体、何が起きているのだろう?
急速に進む資産の現金化
今回の危機的状況の特徴として、経済活動があまりに突然に鈍化したため、バランスシートに注目が集まっている点が挙げられる。景気が後退局面に入ると、消費者が物品の購入を手控え、企業が在庫を圧縮するため、経済活動が多少スローダウンするのはよくあることだ。だが今回は、新型コロナウイルスへの対応策として、多くの企業が強制的に休業、あるいは営業時間の大幅な短縮を迫られている。
売り上げ減も企業にとって決して歓迎すべきものではないが、売り上げがゼロになるのは全くレベルの違う問題だ。この場合、企業は今すぐ資金が必要になる。市場の暴落は、この点を反映しているのかもしれない。是が非でも現金が必要であるため、手元にある資産をすべて売りに出しているというわけだ。
この見方に基づけば、金も、この投げ売りの流れに巻き込まれたと考えられる。経済があまりに突然の打撃を受けたため、どうしても現金が欲しいという切迫感は、過去の下げ相場よりも強い。今の危機への対応が一段落し、政府の支援策が確立されれば、こうした状況にも変化があるかもしれない。だが今のところは、どの資産よりも現金が重んじられているのは明白だ。
ドル高の進行
もう1つの要素は、ドル高の進行だ。ある意味では金は、ユーロや英ポンドのような通貨の1つとも考えられる。すべての通貨ペアと同様に、為替は、双方の通貨に何が起きているかに左右される。
米ドルとユーロの為替レートの動きを理解するには、ドルとユーロ、両方におけるトレンドに目を配る必要がある。ドル建て価格で見た金の値に関しても、同じ理屈が当てはまる。金の米ドル建て価格を検証すると、3月初旬以降、貿易加重後の米ドルの実質レートは3%以上伸びている。これは大きな意味を持つ。このドル高の結果、他のすべての条件が同じだとしても、金の価格は3%下落することになる。これは金の問題をすべて説明するものではないし、米ドル建てだけではなく、ほかの主要通貨についても金が下落している可能性も高い。とはいえドル高の進行は、金の価格下落を助長する要素となっている。