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森村泰昌《Mのセルフポートレイト No.56/B(あるいはマリリン・モンローとしての私)》1995年

2000年に世界初のカメラ付きケータイ電話が発売されて以降、「わたし」を撮る、『自撮り/セルフィー』は日本の、そして世界の常識になりつつあります。しかしこの「わたしがたり」は現代特有のものであるかというと、そのルーツは15世紀半ばの西洋における『自画像/セルフポートレイト』にさかのぼります。自撮りとは、そして自画像とは何なのか? 約600年の自画像の歴史をふりかえり、21世紀の「セルフィー時代」を生きる「わたし」たちに迫ります。

*本稿は、「自画像的作品」をテーマに作品を作り続ける美術家の森村泰昌著『自画像のゆくえ』(光文社新書)の一部を再編集したものです。


「変身願望」のいまとむかし


ところで近年の若いひとのよそおいを見ていると、「いま」という時代は、自由というものが手軽に手にはいる時代なんだなあと、考えさせられることがある。

たとえば服であるが、ずいぶん安価で買えるようになった。しかも種類も豊富にとりそろえられている。若いひとたちが高価な服をたくさん買うことは(通常は)むつかしい。しかし低価格であれば、なんども買いかえることができる。

新しい服を着ることでカジュアルなコスプレを楽しみながら、自分自身をたえず更新していける。中学生の制服から逃れられなくなるというような不自由さは希薄であろう。


Getty Images

私はかつて「女優シリーズ」という一連の作品を手がけていた時期があった。映画女優に私自身が扮して撮影するというセルフポートレイトの試みである。

このとき当然、各種のメイク用品が必要となってくる。ガラリと「わたし」を変身させるために、顔に厚塗り化粧ができるファンデーションなどが必要となるのだが、それらは演劇用の化粧品をあつかう専門店にいかないと買いそろえることができなかった。

ところがたしか、色黒メイクとハデな服で街を歩く「ガングロ」が流行りだしたころからだと思うが、演劇用ではなく町歩き用で、しかも厚化粧向きのメイク用品が、ふつうの化粧品店でいくらでも購入できるようになった。

舞台で演技する役者でなくても、自由に自分自身を変身させるノウハウが、ちゃんと街中の店で準備されることになったわけである。

森村泰昌著『自画像のゆくえ』(光文社新書)の一部を再編集

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