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チャーミングケアで広げる家族の視点


分田先生が、がん治療による外見上の変化に気がついたのは、ワクチンを用いた治療法の研究チームに入っていた10年前のことだ。治療とは別のことで患者さんが困っているのではないかと、チーム内で繰り返し声をあげたという。

しかし、治療チームのなかでは、「治療のためなのだから、患者さんは困っているはずがない」という意見が多かったという。そこで、先生は、30人ほどの患者さんに直接話を聞いたという。

「思っていたよりずっと困っていたのだなというのがわかりました。温泉に行けないとか、半袖が着られないとか、具体的な話がどんどん出てきたんです。そのうちの1人の方から、隠せるものなら隠したいですよという話が出て、そこでカバーメイクというものに出会いました」

分田先生は、自らカバーメイクを習得し、それを患者さんに薦めたという。しかし、そこで、今度はまた別の外見上の問題を耳にするようになったという。

「髪は生えてきますかとか、爪が変形してしまいましたとか、患者さんたちはカバーメイクだけではハッピーではないと感じました。それぞれの困りごとに合わせて、ウィッグやネイルなどを取り揃えていった結果、現在、東大病院内で行っているような外見ケアの活動が、少しずつできあがっていきました」

そこに至るまでに、約10年の時間が経過しているという。チャーミングケアで行った座談会の内容も共有しつつ、どのようにアピアランスケアが広がっていったのか、分田先生は次のように語る。

「成人分野のアピアランスケアが広がっていった背景には、時代の流れが関係していたと思います。始めた当初は、『それって何になるんですか?』という意見をよくいただきました。そのときは、どうやら話が通じてないかもしれないなと感じました」

それが2009年ごろだったという。前述のように、実際カバーメイクを始めて「患者さんたちが、喜んでいるようですね」と聞くようになったのが2013年だった。

「その2013年に、カバーメイクの症例を挙げて研究会で発表した際、1人の男性医師が手をあげて『話を聞いてとても反省しました。外見上の変化について患者さんが嫌がっていても、それは命の勲章だと私は言っていました』と発言したのです。5年経つと、こんなに変化があるものなのだなと感じました」

治療のためなのだから患者さんもなんとも思っているはずがないという感覚が、雪解けになってきた理由には、「サバイバーシップ」という感覚が浸透してきたことが大きいと分田先生は言う。サバイバーシップとは、がんを経験した人が、その後の生活上の課題を、家族や医療関係者、社会全体でサポートし、乗り越えていこうとする考え方だ。

「これは、がん患者さんの数が増えていることや寿命が伸びていることにも起因していると思います。また、入院ではなく外来での治療に変わってきていること、がんが手術で取りきれた場合でも、補助化学療法という再発予防目的の抗がん剤治療をすることが一般化してきていることも挙げられますね。さらに、アピアランスケアの重要性を国が認め始めたとことも大きいと感じます」

しかし、これらはすべて成人患者の話であり、子どもたちに関しては当てはまらない。例えば、見た目の変化に悩む成人の患者にしても、まだまだ個人で工夫をしているのが現状だが、子どもはそれさえ自分でできない。そこが課題だという。

「子どもだからといって、みくびって見てしまっている部分がありますね。それが、子どもの外見ケアへの取り組みの進度を遅らせている気はします。カバーメイクに関しては、親御さんがお子さんの外見ケアの相談で来られた場合でも、相談を受けた時と後では、明らかに安心や満足などの変化があります。いろいろな病気の患者さんに沿った外見ケアがきっとあるだろうし、いまは、それが広がればと感じます」

とはいえ、現状、小児医療の現場で「チャーミングケア」の存在はほとんどない。そんななか、分田先生に、成人分野の外見ケアについてのあらましを聞けたのはよかったかもしれない。

次回は子どもの外見ケアについて、さらに掘り下げていきたいと思う。

連載:チャーミングケアで広げる家族の視点
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文・写真=石嶋瑞穂

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