ビジネス

2020.03.26

トレンドを追うな。山形のニット会社が世界のデザイナーを振り向かせた

「カッティングエッジ賞」を受賞した佐藤繊維代表取締役社長の佐藤正樹。「モヘアみたいでしょう」というヘアスタイルは、どこへ行っても「ああ、 あの金髪の日本人ね」と言われるトレードマークだ


例えば、ハイゲージニット。

「ウールというのは、もともとは野性的な荒々しい素材だったんです。だから交配をして細くて柔らかい毛をつくろうとした歴史があります。そうして、スペインで突然できたのが、メリノウールなんです。スペインは大英帝国に戦争を持ちかけられても、このメリノウールだけは手放さなかったんですよ。

細くて柔らかいウールができて、それに合わせて織機も進化して、それで流行ったのがエクストラファインメリノを使ったハイゲージ(編み目が細かい)のニットです。20〜30年前はハイブランドでしか売っていなくて、10万円くらいしましたけど、いまはいくらか知ってますか。1990円で買えますよ」

“いい”ウールによるハイゲージニットがトレンド化し、素材も製造方法もコモディティ化した結果だ。しかし佐藤繊維は、トレンドを追わなかった。その当時はハイゲージを編める編機を買えなかったという事情もあるのだが、トレンドでもなければスタンダードでもない糸づくりを選んだ。


佐藤繊維の紡績工場で稼働する精紡機。1万4,340錘を保有し、国内の梳毛紡績工場の中ではトップクラス

「例えば、ぬめりのあるアルパカに、ふくらむ英国羊毛を混ぜて、天然毛でありながら新しいタッチの糸をつくりました。それをヨーロッパの展示会に出したら『これは糸とニットを知らない人間がつくっている』と、すごくバカにされました。

混ぜるなんて、ダメなんですよ。そもそも、ウールは欧州のもので、欧州のものが最高とされていたから、日本の繊維メーカーが出展するのも、ありえないんです」

ところが、エクストラファインメリノが最高級品ではなくなってきたことで、トップブランドのデザイナーたちは、それまで見たことのない新しいウールを探していた。その彼ら彼女に、佐藤繊維の独創性あふれるウールが発見された。
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文=片瀬京子 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN 5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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