Close RECOMMEND

朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)

Sean M. Castellano/U.S. Navy via Getty Images

中国の影響力に世論が分裂するオーストラリア。かつてのアメリカとの同盟関係も頼りにならなくなってきたと指摘する報告書も登場した。安全保障分野で屈指のジャーナリスト・牧野愛博氏によるオーストラリア現地レポート第6弾。


今から50年ほど前、米海軍のトップ、ズムウォルト米海軍作戦部長が豪州国防相と会談した。会談の主な議題は、ベトナム・カムラン湾を拠点に活動を活発化させていたソ連軍の動向についてだった。豪州側はズムウォルト氏に問いかけた。「ソ連軍が豪州近海に迫って、有事に至った場合、米機動部隊はどのように対応してくれるのか」。ズムウォルト氏は自信たっぷりに答えた。「米国を信頼していただきたい」。

私が日豪関係筋から聞いた、過去の米豪同盟の強固な結びつきを示すエピソードだ。時は流れ、豪州の脅威として中国が浮上している。果たして、米国の態度は1970年代から変わっていないのだろうか。

昨年8月、豪州シドニー大米国研究センターが発表した論文が国際安全保障の専門家の間で話題になった。「危機の回避、米国の戦略と軍事費そしてインド太平洋における集団防衛」と題した論文は、インド太平洋で米国が軍事優勢を失い、中国の影響力が増大しているといる指摘する内容だった。

センターはチャイナタウンのすぐそばにあった。中国人学生の姿も目立つ。中国からの留学生は、豪州の外貨収入を支える大きな柱のひとつだ。キャンベラで聞いたそんな言葉を反芻しながら、センターのアシュリー・タウンシェンド・外交防衛プログラム所長と面会した。タウンシェンドは面会した部屋の窓から外を眺めながら、「今日は遠くの景色までよく見える」と嬉しそうな表情をした。19年後半から続く山火事の影響で、シドニーもしばしば白いもやがかかったような状態になるのだという。

タウンシェンド氏によれば、報告書は、米国がインド太平洋での軍事プレゼンスを維持できない状態に陥っている状態を、米国の軍事費の不足という側面から分析している。

背景は複雑だ。タウンシェンド氏は「米国は過去20年間、中東での作戦に集中してきたため、米海軍の態勢が十分整っていない。米国内でも過去2年間で軍事予算削減の動きが強まっている」と語る。このため、戦略爆撃機やF22ステルス戦闘機が削減されるなど、米軍の近代化が遅れているという。「米国内では、中国のような大国との戦争に負ける可能性を認めた報告書も出始めている」と指摘する。

米国だけの努力ではいかんともしがたい問題もある。タウンシェンド氏は「米国の世界防衛戦略は持続不可能な性質をはらんでいる」とも語る。1990年代以降、米国やその同盟国の世界に占める国内総生産(GDP)の割合が減り続けているという。

文・写真=牧野愛博

この著者の記事一覧へ

PICK UP

あなたにおすすめ