デジタルプラットフォーマーも積極攻勢
これまで紹介してきたxRのサービスを見ると、ライブ会場や手術室、街中、会議室といった特定の空間を対象としており、その場所ならでの体験の価値を高めているという点も重要です。
近年、xR関連の企業から「空間コンピューティング」という概念が提唱されていますが、これは紹介してきたような現実空間を、デジタル空間やデジタルコンテンツで拡張させるコンセプトで、5Gの未来を見立てるための重要なキーワードとなります。
米国のxRスタートアップである「Magic Leap」は、NTTドコモが開催した「DOCOMO Open House 2020」にて、自社で開発したMRヘッドセット「Magic Leap One」とそれを稼動させるためのプラットフォームである「magicverse」を紹介しました。
Magic Leap Oneは、多数のカメラで周辺環境の映像を収集するだけでなく、深度センサーによって、奥行きも含めた空間情報を収集します。それによってレンズに表示されるデジタルコンテンツは平面的ではなく、奥行きを有した空間的な映像として描かれます。これによって現実空間とデジタル空間が融合したような世界を実現します。
同社は、このような技術を活用して、「京都の歴史的な観光名所に、デジタルコンテンツでサムライを描いて立たせ、Magic Leap Oneを装着した来訪客に、映画の世界に入り込んだような体験をしてもらう」という提案をしています。
空間コンピューティングによって、その場所ならではの魅力を引き出す、まったく新しい体験を実現することを目指しています。
4Gの時代には、いつでもどこでもやりたいことができる、「モバイルコンピューティング」の世界が実現されました。5G時代は「空間コンピューティング」の時代です。「いつでも、どこでも」に加えて、「いまだけ、ここでだけ」の価値をどう生み出すかが重要となります。
「5Gはキラーアプリがまだ見えない」とよく言われますが、私は空間コンピューティングのコンセプトに基づくキラーアプリに期待しています。
Spatial Systems inc.やMagic Leapのようなスタートアップだけでなく、「Microsoft HoloLens」や「Facebook Oculus」のようなデジタルプラットフォーマーも、この領域での覇者となるべく積極攻勢をかけています。
ただ、空間コンピューティングによるサービスは、現実空間をデジタル空間に取り込む必要があり、デジタル空間で完結するサービスほどスケールアウトは容易ではありません。
渋谷や京都のように、「競争力のある現実空間」でサービスを構築できるプレイヤーが、グローバルなデジタルプラットフォーマーと競合したり、デジタルプラットフォーマー上で独自のビジネスモデルを構築したりできる可能性があるということです。
亀井卓也
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