研究チームが各種タイプの潜在的な動機を調べたところ、深層演技者は、社会的な目的に突き動かされて演技をする傾向があることがわかった。つまり、彼らが演技をするのは、同僚や、同僚との関係にとって利益になるからだ。一方、調整演技者は、「印象を管理すること」を目的にして演技をする傾向があった。別の言い方をすれば、自分に対する他人の印象を維持しようとしているのだ。
それぞれの異なる演技戦略がもたらす結果からみると、身体的ならびに精神的な緊張レベルがもっとも高くなるのは調整演技者だった。「調整演技者は、ウェルビーイングの点数が最も低く、精神的な疲弊度が高いことや、職場での態度があまり誠実ではない点などがみられた」とガブリエルは述べている。
それに対して深層演技者は、仕事において一定の社会的利益を享受しており、同僚からサポートを受けることが多かった(業務面での支援や、アドバイスというかたちで後押しを受ける)。また、ほかの演技タイプよりも仕事の目標を達成しやすく、同僚に対する信頼も厚かった。
こうした結果から、同僚と接するうえでは、世間体のためだけに笑顔を取り繕うことがベストではない可能性が見えてくる。たしかに、つくり笑顔を浮かべたほうが好ましいときがある(クビにならずに済むかもしれない)。しかし、より有効な方法は、同僚に対してできるだけ前向きな気持ちを育むことなのかもしれない。
「『実際にできるまで、そのふりでいいからそう行動せよ』という姿勢は、職場で生き残るための手段だと思う」とガブリエルは述べる。「職場での人付き合いをうまく切り抜けるには、つくり笑顔を浮かべたほうが短期的にはラクなのかもしれない。しかしそうした姿勢は、長期的に見れば、職場での人間関係を向上させ、自らの健康を増進させるための努力を損なうものだ。(中略)多くの点において、結論は、『互いに良い関係を築こう』ということに行き着く。そうすることで、皆の気分がよくなるだけでなく、パフォーマンスと社会的関係も改善するだろう」
とはいえそれは、「気持ちよく接する」だけでは不十分だ。行動の背後にある感情を、可能な限り、実際に育むことが大切だ。
ガブリエルは、大切なポイントとしてこう述べている。「同僚と前向きな気持ちで接しようと努める深層演技者たちは、対人関係を良いものにしたいと考えて、そうした姿勢をとっている。そしてそうした努力から、結果的に大きな恩恵を受けているのだ」