米国がスパコン16台でワクチン開発、IBMやNASAらが総力戦

サミット (C) OAK RIDGE NATIONAL LABORATORY

米政府は、新型コロナウイルスの治療薬とワクチン開発を加速するため、16台のスーパーコンピュータを世界中の研究者に開放すると発表した。スパコンを使うことで、膨大なデータセットの処理や、複雑な分子挙動のシミュレーションを従来よりも格段に速く行うことができる。

ホワイトハウスの科学技術政策局は3月22日、新たなコンソーシアム「COVID-19 High Performance Computing Consortium」の設立を発表した。同コンソーシアムが運用するスパコンには、世界最速の「サミット(Summit)」も含まれる。

今回のコンソーシアムには、米エネルギー省傘下のローレンス・リバモア国立研究所、サンディア国立研究所、そしてサミットを保有するオークリッジ国立研究所が含まれる。他にも、MITやレンセラー工科大学、NASA、アメリカ国立科学財団が参画する。

グーグルクラウド、アマゾンウェブサービス(AWS)、マイクロソフトもコンソーシアムに加わり、クラウドサービスを提供する。

大学や政府、企業に所属する研究者は、ウェブサイトを通じてコンソーシアムに提案を行うことができる。提案内容は、高性能計算や生物学などの専門家が精査し、最も優れたものを選出する。多くのスパコンの開発に携わったIBMが、コーディネーターの役割を果たす。

トランプ政権でチーフ・テクノロジー・オフィサーを務めるマイケル・クラツィオスは、声明の中で次のように述べた。「米国は一致団結してCOVID-19との戦いに挑んでいる。治療薬とワクチンの開発を迅速化するために、世界トップクラスのスパコンを全面導入する」

16台のスパコンを合わせた処理速度は330ペタフロップス(ペタは1000兆を意味する。フロップスは1秒間に処理可能な浮動小数点演算の回数)で、サミット単体でも処理速度は200ペタフロップスある。これは、地球の全人口である75億人が毎秒計算しても305日を要する量だ。16台のスパコンを合わせると、CPUの数は77万5000個、GPUは3万4000個に達する。

スパコンが新型コロナウイルスとの闘いに有効である兆しは既に出ている。IBMリサーチでディレクターを務めるDario Gilは、ブログの中でオークリッジ国立研究所とテネシー大学がサミットを使って行った共同実験について触れている。それによると、研究チームは8000種類の化合物を調査し、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合して無力化できる可能性のあるものを77種類特定できたという。

スパコン以外にも、新型コロナウイルスとの闘いにコンピュータを用いているケースがある。一部の研究者は、コンピューティングパワーをクラウドソースし、タンパク質の動態の理解に努めている。

また、AIを使って新型コロナウイルスに対抗しようとしている研究者らには、2万9000もの研究論文が公開された。IBMは全世界でCOVID-19に特化したコーディング・チャレンジを立ち上げ、アマゾンはワクチンテストを迅速化するために2000万ドル(約22億円)を投じると発表した。

編集=上田裕資

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