自分の選手としての限界はもう見えている。だからこそ今、次の世代のために
──大迫選手といえば、アスリートとしての勝負にこだわり続けることと並行して、「箱根駅伝は誰のものか?」という問題提起や、マラソン大会を新設する動きなどでも注目されていますが、なぜ広い視野での発言や行動が可能なのでしょうか。
個人でやっていくことの限界を感じているからです。どう頑張っても、1年間でトレーニングに費やせる時間や、伸ばせるスピード・記録というのは、限りがある。それに、これから10年も20年も続けられるものではありません。
自分が現役生活を送る中で、世界との差をどれだけ縮められるかは、ある意味でもう見えてしまっているんです。ある種の諦めみたいなものはあると思います。
自分自身が最大限努力することは当然として、早い段階で、次の世代につなげていく動きをしなければと、思うようになりました。現役時代は自身のレースに集中して、引退した後に考えることが一般的かもしれませんが、そのタイミングでは、僕自身の価値を最大限発揮できません。
大会を新設するということ一つをとっても、僕なんかよりも、知識や経験を多く持っている人たちはたくさんいて、太刀打ちできません。そういった中で、今僕がスタートして渡り合えるとすれば、やはりネームバリュー。大迫傑というブランドだと思いました。引退後に始めたとしたら、実現までに、今よりもずいぶん時間がかかるでしょうね。
世界で戦う選手を育成するために。日本人による、日本人のための強化レースを
──マラソン大会を新設しようと思ったのはなぜでしょうか。
海外では自国の選手を高めるためにレースを開催しているというケースは、珍しくありません。でも日本にはない。
日本も、日本人による日本人のための強化レースを開催していいと思うんです。オープンとかグローバルみたいなことももちろんいいですが、日本人選手が力をつけてブランドを高めていく場を、作るべきだと考えています。
例えば、僕が所属していたナイキ・オレゴン・プロジェクトはアメリカ人の長距離走選手の強化を目的に設立されたチームですし、初めてアメリカに行った時に、チーム内で、外国人である僕のプライオリティはすごく低いということを、身をもって感じました。
分かりやすいことで言えば、走り込んだ後のマッサージの順番。他のアメリカ人選手が施術を受けるのを、最後まで待つなんてこともそうです。僕はアメリカ人ではないので当然のことで、それを踏まえても、日本で活動するよりも自分のためになるとわかっているので、アメリカでの活動を続けています。
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それに、現行の実業団というシステムは、世界と戦う選手を作るには無理があります。実業団のゴールの一つは駅伝です。駅伝と、マラソンやトラック競技というのは同じではない。だからこそ、実業団とは別のピラミッドを作っていかなければいけないんです。
もちろん、実業団という安定したシステムが機能しているからこそ、これだけ裾野広く様々な選手が活動を続けられるわけです。選手の土台を支えているという意味では、実業団の価値は大きい。だからこそ、実業団が目指す、駅伝というゴールとは別に、マラソンやトラック競技において世界で活躍できる人材を育てていくためのピラミッドを、別に作れたらと思うんです。