電通総研内のクリエイティブシンクタンクによる連載「NEW CONCEPT採集」

二コマコス倫理学とホンダのスーパーカブ。この2つに共通していることは何か。

実は両方とも、もともとは身近にいる大切なひとりのためにつくられたというルーツをもっている。ニコマコス倫理学は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが息子のニコマコスのために「正しい生き方」とは何かを検討すべくつくった学問。ホンダのスーパーカブは、本田宗一郎が戦後、自転車に荷物を載せて坂道をこいで買い出しに行く妻を助けるために、自転車にエンジンをくっつけた乗り物。

家族、親戚、恋人、友人、ペット、お客さんなど、困っている人を助けるためにつくってみたら、実はみんなが欲しがっていたものだった。このコンセプトがベースになっている発明が世の中にはもっとたくさんあるのではないか。私たちはそう仮説を立てて、このコンセプトに沿ってつくられた発明を「Prototype for One」と定義した。そして、いざリサーチしてみると、誰もが知っているあれもこれもPrototype for Oneだったことがわかってきた。

KUMONもカツカレーも


例えば、世界中で「KUMON」として知られている公文式。高校の数学教師だったお父さんが、息子のために算数教材をつくったことから始まった。ルーズリーフに書かれた手づくりの計算問題を、毎日30分解いていた息子の学力はみるみるうちに上昇し、小6のときには微分や積分まで解けるようになったそうだ。

この手づくりの教材はすぐさま近所でも噂になり、我が子にも指導してほしいという親が続出。それならばと、息子と同じように近所の子どもたちにも指導してみたところ、その学力はみごとに向上。こうした経験が公文公さんの自信につながり、算数教室を開いてみるキッカケになったそうだ。

定番の人気メニューとして全国的に知られる「カツカレー」。これも実は、店主がひとりのお客さんのためにつくったメニューだ。

銀座の老舗洋食店「グリルスイス」の常連だった読売ジャイアンツの千葉茂。彼は、決まってカレーライスと一緒にお店の名物だったトンカツを注文しては、別々に食べていた。そんなある日、千葉さんは2つを別々に食べるのは時間がかかることに気づき、トンカツをカレーに乗せて食べるようになった。それを見た店主は、正式なメニューとして取り入れることを決意。他のお客さんの間でも評判になり、今では多くのお店で出されている。

2007年の発売以来、2歳から5歳の子どもをもつ親の間で大ヒットしている自転車を改造した子ども用の乗り物「ストライダー」。これもまた、アメリカの片田舎に住む父親のガレージから生まれた発明である。

自転車に乗るにはまだまだ早かった2歳の息子のために、市販の子ども用自転車のペダルとブレーキをなくし、子どもが足で地面を蹴りながら前へ進めるようにした。「ストライダー」は、子どもの好奇心を刺激し続けるだけでなく、バランス感覚の向上にも役立ち、いざ自転車に乗る練習を始めても上達速度が上がると言われている。

海外へ留学する子どもたちが遠く離れた海の向こうでも日本の味を手軽に食べられるようにするにはどうしたらいいだろう。二十数年前、子どもの栄養や健康を心配する母の想いから生まれた発明もある。

母は、麩の焼きの最中に乾燥させた野菜や麩などたくさんの具を詰めることを思いつく。それに金沢風の粉末出しを添えれば、手軽なお吸い物「宝の麩」が完成。子どもたちに持たせてみたところ、現地に住む他の日本人の間でも「手軽でおいしい」と話題に。多くの人から贈り物として依頼されるようになったことから、商品化へ踏み切った。

文=キリーロバ・ナージャ、鳥巣智行 イラストレーション=尾黒ケンジ

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