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2020.03.24

DX化に勝機アリ──異色のギルド集団が描く、「日本の伝統工芸」復活のシナリオ

空の目のボードメンバー

いま、日本の伝統工芸は岐路を迎えている──。

日本政策投資銀行が2018年に発表した「地域伝統ものづくり産業の活性化調査」によれば、1984年に生産額がピークを迎えて以降、バブル崩壊による経済の低迷や安価な海外製品の台頭、ライフスタイルの変化によって生産額は年々、減少。現在はピーク時と比較すると5分の1、約1000億円程度の生産額になっている。

また、従事者の高齢化も深刻化。経産省の公表によれば、平成21年度の時点で50歳以上の従事者の割合は64%、30歳未満が5.6%となっている。長年受け継がれてきた技術を継承する人が圧倒的に不足している状況にある。

このような状況を踏まえ、「このままでは日本の伝統工芸は残っていかない……」と危機感を募らせ、日本の伝統工芸の新たな価値創造に向け、前代未聞の取り組みを行っている人物がいる。それが日本の伝統工芸品「博多織」の織元として、創業から123年の歴史を持つOKANOの代表取締役社長を務める岡野博一だ。

彼は岡野の社長を務める傍ら、新たな会社「空の目」を2019年5月に設立。主に伝統工芸のブランド・インキュベーション事業、プラットフォーム事業を手がけている。

また、同社のスキームもユニークだ。空の目には現代アーティスト・小松美羽の世界戦略を手がけるエグゼクティブ・プロデューサーの高橋紀成(写真中央)、ECプラットフォームのスタートアップに初期フェーズから参画し、上場フェーズまで経験するなど、ECについて豊富な知見を持つ袴田浩友(左から2番目)、孫正義や柳井正、ジャック・マー、澤田秀雄などもメンバーである「企業家倶楽部」の代表取締役社長兼編集長の徳永健一(一番右)などが取締役に名を連ねる。取締役の全員が個人で会社を持っており、空の目はギルド集団のような形をとっている。

また、国内外ジュエリーのブランディングを手掛けた英語圏のブランドディレクター佐久間千代美(上段)、大手化粧品メーカーの新規ブランド立ち上げや広報・PRを担当してきた柄澤幸恵(中央)、数々の大物アーティストの中華圏進出を手掛けた台湾出身の中華圏戦略ディレクター星原恩(下段)の3人の女性もボードメンバーとして空の目に参画している(上記写真)。


OKANOの代表取締役社長を務める岡野博一

「あらゆる産業のデジタル化が進んでいる時代。そして中国Eコマースの『Secoo』によれば、ミレニアル世代とZ世代の合計可処分所得は2015年に全体の34%を占めていましたが、2025年には50%まで拡大すると言われている。そういう時代において、伝統工芸もデジタルトランスフォーメーションしていくべきだと思っています」(岡野)

空の目が目指す、日本の伝統工芸の新たな価値創造──これを推進していくにあたって、鍵となっているのが「デジタルトランスフォーメーション」だ。そこに注力するため、日本のデジタル情報革命の第一人者として知られ、LANやMPEGの規格、デジタルハイビジョンの開発に携わった、ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEOの藤原洋が同社の取締役特別顧問に就任。藤原が中心となり、デジタルトランスフォーメーションを指揮していく。

「日本からLVMHグループのような企業をつくっていきたい」

岡野は力強い言葉で、そう意気込む。「お仏壇のはせがわ」で知られる、はせがわの相談役・長谷川裕一や船井総合研究所を東証一部に上場させた三代目社長兼会長CEOを務めた小山政彦などが出資する空の目の挑戦の全貌に迫っていく。
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文=新國翔大 写真=小田駿一

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