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2020.03.24

DX化に勝機アリ──異色のギルド集団が描く、「日本の伝統工芸」復活のシナリオ

空の目のボードメンバー


この岡野の考え、気持ちに共鳴するブランドも出てきている。​それが創業から200年以上の歴史を誇り、現代のライフスタイルに合わせたラグジュアリーモダンな有田焼を提案するアリタポーセリンラボだ。同社はパリの老舗香水ブランド「Guerlain(ゲラン)」とコラボレーションするなど、有田焼の新たなあり方を模索し、形づくっている。

代表取締役社長の松本は、有田焼の置かれた状況をこのように話す。


アリタポーセリンラボ代表取締役社長・弥左ヱ門窯七代目当主の松本哲

「伝統工芸の落ち込みは激しく、有田焼も最盛期の10分の1ほどの規模になっている。従来のモダンなデザインの商品だけでは厳しく、白の質感をマットにするなど、現代の住環境に合うデザインにしています。

焼き物屋はカジュアルでモダンなところを目指すのが多いのですが、そこは激戦区なので我々はラグジュアリーでモダンなカテゴリーを目指しています。もともと岡野さんとは昔からの知り合いで、有田焼をブランド化していくべきだと思っていたところ、先んじてGINZA SIXに出店するなどブランド化のための取り組みを行っていた。その考えが我々が目指している世界と同じだと思い、一緒にできればと思ったんです」(松本)

空の目は将来的には50個のブランドをインキュベーションし、成功させることを目標に掲げる。200億規模のブランドを50個保有し、1兆円の売上を出す算段だ。

「そんなに簡単なことではなく、時間はかかるかもしれないですが、それくらいの数字は達成する可能性があるビジネスモデルだと思っています。ミレニアル、Z世代は教養の高い集団で地球に優しい、サスティナブルといった倫理観を大事にしている。このマーケットは今までにないもので、彼らはこの商品を買うことでどんなことになるのか、本質的な価値にお金を払ってくれるので、私たちと相性はいいと思っています」(岡野)

伝統工芸のデジタル化──そこに伝統工芸、ひいては日本再興の可能性がある、と藤原は考えている。

「十数年前と今では日本の役割も変わってきました。昔は自動車や通信機が中心的でしたが、5Gのマーケットシェアはファーウェイが34%、エリクソンが23%、日本はNECが0.8%、富士通が0.7%となってしまっている。

この数値を見て日本はダメだ、という人もいますが、今だからこそ日本の役割は効率のいいものをつくって売るのではなく、心を豊かにするものを世界に届けることにあると思うんです。だからこそ、伝統工芸のデジタル化を進め、世界に広めていくべき。そうすることで世界中の人をハッピーにでき、日本も新しい産業をつくれる、と思っています」(藤原)

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」

自然淘汰とは、「強者生存」ではなく「適者生存」であると進化論を唱えたイギリスの自然科学者のチャールズ・ダーウィンは言ったが、さまざまなバックグラウンドを持ったギルド集団が取り組む「日本の伝統工芸」再生への道のりはいま始まったばかりだ。

文=新國翔大 写真=小田駿一

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