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2020.03.24

DX化に勝機アリ──異色のギルド集団が描く、「日本の伝統工芸」復活のシナリオ

空の目のボードメンバー


いま、社会は精神的な充足を求めている


「空の目の構想は10年前からずっと考えて構想を練っていた」と岡野は語るが、なぜこのタイミングで会社を立ち上げ、伝統工芸の再生に本腰を入れることにしたのか。

「まずは自分が20年ほど、伝統工芸の世界で現場の職人たちとつながり、彼らが抱える課題や心の痛みが真に理解できるようになったんです。ここを本気で理解しない限り、自分がどれだけ崇高なビジョンを語っても誰も付いてきてくれない。歴史が長い業界だからこそ、20年ほどは職人たちと考えを共有するために必要でした。

そうしている間に東京五輪、大阪万博が決まり、世界が日本に注目する絶好の機会が来た。それに加え、ここ数年であらゆる産業がデジタル化してきている。このタイミングは絶対に逃してはいけない。そう強く思ったんです」(岡野)

また、そのタイミングで知人の紹介で藤原に会い、空の目の構想を話したところ意気投合。藤原が特別顧問として参画することで、空の目が立ち上がった。

藤原は伝統工芸のデジタル・トランスフォーメーションについて、こう語る。


空の目 取締役特別顧問の藤原洋

「伝統工芸の本質は今まで“匠の技”にあり、昨今は高齢化と共に匠の技をいかに人に伝えていくか、が課題になっている。あらゆるものに科学が使われて進化している時代において、伝統工芸も科学を取り入れる時代に来ているんです。例えば熟練技術のデジタル化は分かりやすい例でしょう。3Dモーションキャプチャーで計測したり、手指の力覚をセンシングして数値化したりすることで、熟練の技術を継承しやすくできます。

これまでの日本の伝統工芸の良さを世界に広めるとき、これまでの日本は便利なもの、安くていいものなど効率を追い求めてきましたが、今は効率よりも感動や美を求めている。そこに貢献することが伝統工芸のデジタル化の役割かな、と思っています。和服や帯でしか使ってなかった博多織がネクタイになったり、食器になったりする。デジタル化こそが伝統工芸の影響力を広め、新たなマーケットを作る役割を果たしていくんです」(藤原)

冒頭で岡野が語っていたように、2025年にはデジタルネイティブ世代の可処分所得は50%まで増えると言われている。そうなる以上、デジタル化は必要不可欠。熟練技術の継承のほか、デジタル上で購入しやすい商品を開発したり、価格を変えていったり、さまざまな工夫が必要になってくるだろう。

「自分はこの“デジタル化”がLVMHグループに勝てるポイントになってくると思っています。欧州のラグジュアリーブランドは70年前に始まり、デジタルを前提としておらず、+αでデジタルを乗せている。であれば、デジタル・トランスフォーメーションを前提で進めていき、後からリアルに展開していけば大きな優位性になると思ったんです」(岡野)

まず、空の目はデジタルネイティブ世代と伝統工芸の接点を増やすため、お土産やギフトの再編集にも取り組んでいくという。

「お土産は本来、その土地の文化が踏襲されたものであるべきです。しかし今は山梨県のお土産にもかかわらず、製造先は静岡県になっていることがある。まずはその土地の文化が詰まったカッコよく、手頃なお土産をつくり、デジタルネイティブ世代と接点を持つ。その次にギフトの領域にも入っていきたいと考えています」(岡野)
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文=新國翔大 写真=小田駿一

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