中国も偵察! 合同演習で見えた自衛隊を縛る「見えない鎖」

LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇(Jason Reed - Pool/Getty Images)


なぜ、豪州で演習を行うのか。


陸自は13年から17年にかけ、米国西海岸で2年に1度行われる演習「ドーン・ブリッツ」に参加していた。ただ、ハイウェーが演習地を横断しているため、演習の動きを一度止めなければならなかった。日本にとって豪州は米国よりも近いため、様々な作戦に引っ張り回されて不足しがちな海自艦の運用を助けた。しかも、行き帰りには、中国が進出を狙う太平洋諸島にも立ち寄ることができる。実際、昨年は、パプアニューギニアに寄港した。

本来ならば、日本での演習が理想的だが、国民感情や広い演習地の確保などの問題がある。日本の近くであれば、毎春に米韓両軍が大規模な着上陸演習を行う韓国東岸の浦項があるが、韓国は2018年秋、自衛艦旗(旭日旗)を掲げた海上自衛隊艦艇の国際観艦式参加を拒むなど、自衛隊アレルギーが強い。中国が掲げる「第1列島線」上にあるフィリピンの演習地は条件面で不備が多く、「第2列島線」上のグアムの演習地はまだ完成の途上にある。


ジョン・リー

豪州にとってのメリットも大きい。


シドニー大学の中国専門家であるジョン・リー氏は「中国はオーストラリアの利益に反する方法で地域の環境を変えようとしている。この状況で、日本は重要な戦略的ピースと言える」と語り、演習の実施を歓迎した。「日本が憲法を変えることで、より積極的な役割を果たすというのであれば、我々は日本の憲法改正を支持するだろう。東南アジアや豪州では、日本のより積極的な役割を期待する声が高まっている。第2次世界大戦当時に抱いた日本への懸念はもうない。今は、日本ではなく、中国に対する恐怖がより存在するのだ」

自衛隊関係者はタリスマン・セーバーへの参加について「自衛隊の能力を示すことはもちろん、米国や豪州と連携する能力を示すことは、戦争の抑止につながる」と強調する。冒頭で紹介したように、豪州国防省はあえて中国軍情報収集艦の出現情報をメディアに提供した。情報収集艦が、関心のある国々の演習場に現れることは珍しいことではない。意図的に情報を提供することで、この演習が中国へのメッセージだという構図をはっきりさせた。

豪州での演習は日豪両国にとって大きな意義を持つことは間違いない。ただ、そこには様々な問題も隠れている。

自衛隊OBの1人は「着上陸演習は沖縄本島や先島諸島が占領された場合を想定している。中国を抑止するメッセージにはなるが、果たして実用的と言えるのか」と語る。日中の武力衝突の場所として最も世間が想像しやすい尖閣諸島は、地形が狭く、着上陸作戦を行う場所としては想定されていないという。
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文・写真(ジョン・リー氏)=牧野愛博

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