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朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)


中国が沖縄本島や先島諸島を占領するような事態が本当に起こりうるのか。


複数の自衛隊関係者らの証言を総合すれば、中国が沖縄にまで侵攻すれば、沖縄に軍を駐留させている米軍との衝突は免れない。そんなケースは通常考えにくい。あるとしても、台湾を巡ってすでに米中が衝突しているなど、かなり条件が限られてくる。危機に備えることは重要だが、自衛隊が着上陸作戦を強いられる局面は、ほとんど最悪のケースと言って良いだろう。

また、中国も戦争を仕掛ける以上、自らの被害を最小限に抑える作戦を考えるはずだ。航空自衛隊の元幹部は「まず制空権、それから制海権を握って、敵の反撃を最小限に抑え込んでから攻撃してくるはずだ」と語る。この元幹部は「今必要なのは、中国の弾道ミサイル攻撃を防ぐ、滑走路の強化や増設ではないか」と語る。

別の海自元幹部は、自衛隊が空母の建造を急いでいる理由について「中国による国内の滑走路破壊に対する備えでもある」と話す。「中国が第3列島線にまで進出すれば、日本への攻撃は西から来るとは限らなくなる。空母があれば、中国からの攻撃が最も予想される方向の守りを手厚くできる」とも語る。

このほか、専門家は、中国によるサイバー攻撃や無人機を使った作戦などの脅威なども指摘している。自衛隊のある中堅幹部は「やることが山積しているが、予算や人繰りには限界がある。さらに防衛計画の大綱が出るたびに、その時々の政治家や専門家の意見次第で、ころころと方針が変わる」と懸念を示す。

かつて陸上自衛隊は一時期、日本に上陸した武装工作員に対処する訓練を熱心に行っていた。当時、北朝鮮からの武装工作員が日本でテロ活動を行うという小説が話題になった影響を受けたからだという。自衛隊関係者はこの訓練が下火になった理由について「あるとき、これは警察の仕事で、我々がやるべきことは別にあるのではないかと気がついたからだ」と自嘲気味に語る。

もちろん、自衛隊だけの責任ではない。日中間の防衛交流や外交が停滞しているため、中国が一体何を考えているのか、その真意をつかむことがなかなかできない。信頼醸成も進まない。自衛隊OBの1人は「信頼関係があれば、無駄な軍拡競争はある程度避けられるのだが」とも語る。

安倍政権は長く中国との対決姿勢を維持してきたが、アベノミクスの成功や数少ない外交成果の獲得を目指した首相官邸の主導で日中関係改善の方向に舵を切った。ただ、習近平中国国家主席が来日し、戦後5番目となる日中政治文書が発表されても、日中間の信頼醸成は容易ではないという意見も根強い。中国が政治的な意図を示すことや情報公開に極めて消極的な姿勢を示しているからだ。そして習主席訪中は、新型コロナウイルス問題の影響で延期が決まった。

そして、日本には憲法9条があり、防衛力整備には常に制限がつきまとう。着上陸演習で各国軍が当たり前のように用いる強襲揚陸艦を、自衛隊は保有していない。「専守防衛」がルールだからだ。

日本が今目指すべき自衛隊の未来の姿は、実は誰もわかっていない、あるいは考えたくないのかもしれない。

文・写真(ジョン・リー氏)=牧野愛博

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