クリエイティブ思考には、大きく4つの要素があります。
1つ目は、過去から学んで、いまを知ること。先駆者や先輩、歴史に対する敬意をもって「共感」を大事にすることからすべてが始まります。
創設や事業の歴史、当時の環境や市場、それらを担った人々を受け入れ理解することで現在を知り、共感に至る。過去のリソースがイノベーションの基礎になり、まったく新しい次の可能性を探ることができます。
アーティストの世界でいえば、偉大な先人であるバッハ、ヘンデル、ハイドン、モーツァルトの音楽様式を取り込み、新しい芸術を創造したベートーヴェンがいます。
さらに、ジャズピアニストのビル・エヴァンスは、クラッシックのラフマニノフやラヴェルの様式を持ち込んだことで、マイルス・デイビスがモード・ジャズの革命的方法論を創造した際に、重要な役割を担いました。
誰かの成功事例を探さない
2つ目の要素は、「創造」です。
創造は、まず自分と向き合い、自己のアイデンティティを探ることから始めます。自分自身の課題と向き合い、見たくない部分までも深く掘り下げていくのです。その作業は勇気がいるし、とても苦しいですが重要なこと。
これは、企業や事業においても同じで、自社のアイデンティティを徹底的に探ることから始めます。大切なのは、アイデンティティを普遍的なものと思い込まず、時代の流れとともに変化し、進化し続ける流動的なものだと認めることです。既存のルールや偏見にとらわれないでください。完璧で固定的なアイデンティティは存在しません。
2017年、坂本龍一は自らの強い意志で、「非同期的な音楽」を、ニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーで100人の聴衆を前に、2日間限定で演奏しました。それは、商業的な成功を求めたものでもなく、オーディエンスが喜ぶ音楽でもない。彼が自分と向き合った結果の作品だったのです。
リズムや音階などすべての常識から解放されたこの音楽は、自らのアイデンティティそのものでした。「誰にも聴かせたくなかった、あまりに好きすぎて」と当日の演奏についての彼の言葉が、そのことを物語っています。
アイデンティティを探り、いまの自分を「感じる」ことは、新しい変化や創造を起こす基礎となります。
「創造」の段階で気をつけなければならないのは、これまでの成功事例を探さないことです。「感じる」ことからの逃避になるからです。世間で言われる成功者や業界内の企業や他種ビジネスなどの成功事例をイメージし、自らのアイデンティティとすり替えないことが重要です。
いま感じていることが芽となって、この先の未来に新しい変化や創造を起こす。誰にも予測がつかないことですが、不安にならないでください。過去からの学びに共感し、自分のアイデンティティから感じるものを尊重すれば、他人の成功事例など意味がないことがわかるはずです。
このように、クリエイティブ思考では、いかに自己と向き合えるかが重要になってきます。妥協は許されません。