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2020.03.24

誰かの成功事例には意味がない。イノベーションを自分の内側から見つける思考法

Westend61 / Getty Images

これまで2回にわたり、MBA的なコンサルアプローチ、デザイン思考、アーティストの思考ついて話をしてきました。今回は、その2つから要素を抽出した「クリエイティブ思考」について説明します。

まず皆さんにお伝えしたいことは、イノベーションは、人間が創り出すということ。偏見にとらわれず相手に敬意を払わなければ、何も生まれません。ですから、人との出会いを大切にし、その「縁」を壊さないこと。この基本的でありながら、なかなかできないことに徹底的にこだわり続けて欲しいのです。

人間は、課題解決の対象ではありません。「相利共生」の関係、つまり双方にプラスの成長をもたらす関係であるという認識を持つことが重要なのです。

1つの例を挙げます。1950年代から60年代にかけて、モダンジャズに革新的な歴史を築いた「帝王」マイルス・デイヴィスは、相利共生を実践した一人でした。彼は、常に音楽の最先端を走り、変化し続けていきました。

アフリカ系アメリカ人であるマイルスは、音楽に偏見や人種差別問題を持ち込まず、白人の天才ピアニストのビル・エヴァンスを自らのバンドのメンバーに登用し、周囲を驚かせました。

「音楽は、競い合うのではなく協調しながら創り上げていくもの」「最高のプレイをするなら、肌が緑色でも雇う」という彼のスタンスは、強烈な反発も受けました。しかし、マイルスは、ジョン・コルトレーン、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ジョー・ザヴィヌルなどの仲間とともに次々に新たなジャズシーンを創造し、最後にはジャンルを超えて音楽の変革を成し遂げることができたのです。もし彼が自分だけで何でもできると思っていたら、ジャズ史に残る音楽的革命は何も生まれなかったでしょう。

「共生」には、片方のみが害を被る片害共生、片方のみが利益を得る片利共生、双方が利益を得る相利共生と、いくつかの段階がありますが、彼が実践したのはまさに相利共生でした。敬意、協調、相利共生、このことを念頭に置きながら、クリエイティブ思考の本題に入っていきたいと思います。

クリエイティブ思考とは何か


では、「クリエイティブ思考」とは何か。それは、デザイナーになりきって線を引いてデザインすることでもなく、アーティストになりきって絵を描いたり楽器を弾いたりすることではありません。

「クリエイティブ思考」とは、クリエイターやアーティストが新たな作品をつくり出そうとするときの手法を、ビジネスイノベーションの場面に応用させた思考法です。

とはいえ、「新しいものを生み出す」と言っても、何から始めたらいいのか、わからない人も多いのではないでしょうか。

企業が新しい時代を生き抜くには、過去のデータや実績をもとにした成功事例やビジネスモデルをなぞっているだけでは、通用しません。

そこでヒントをくれるのが、創造者・表現者であるアーティストや、課題を形にして創り上げていくデザイナーです。これらの人たちの思考を紐解けば、私たちでも、新しいものを生み出すことができるようになるでしょう。ここからは、その思考法を詳しく解説していきましょう。
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文=松永エリック・匡史 構成=細田知美

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