ビジネス

2020.03.25 10:00

エアビーがホテル業界を「破壊」するまで。新しい「当たり前」を作る組織が勝つ


「目の前の顧客」にとらわれない


Airbnbが創業当初から、すぐに一般ユーザーから受け入れられたかというと、そんなことはなかった。

同社が生まれた2008年当時は、スマートフォンの普及率もまだまだ低く、iPhoneを持っているのはごく一部のアーリーアダプターだけだった。現在ほど「シェアリング・エコノミー」という概念・価値も認知されておらず、人々の消費スタイルが「所有型」から「利用型」へと移行するのは、もう少しあとになってからのことだ。

このような時代のなかで生まれたAirbnbは、いまでこそ大成功したビジネスモデルとして脚光を浴びているものの、当初は各方面から「うまくいくはずがない!」とこき下ろされたのだという。ベンチャーキャピタルからの投資を断られた回数は、なんと60回を超えるというから驚きだ。



ただ、そのときの状況を踏まえるなら、それは無理もないことだった。当時のホテル業界は、安定した収益を上げていたし、顧客側にもしっかりとしたニーズが見えていた。こうして「現在」のマーケット状況に適合することを「プロダクト・カレント・マーケット・フィット(PCMF:Product Current Market Fit)」と私は呼んでいる。

「我々はAirbnbをニッチなビジネスと考え、影響力はないと侮っていた」

世界的ホテルチェーンであるベストウエスタンのCEOデイビッド・コングは、当時をこのように回顧している。

既存の「宿泊」の概念の延長線上で考える限り、やはり主な商流は「ホテル業」だった。そこには「民泊業」が受け入れられる余地はほとんどなかったし、あったとしてもそれはごく一部のニッチなニーズを満たすビジネスにしかなり得ないと考えられたわけだ。

他方、Airbnbは「目の前のマーケット」を見てはいなかった。彼らが見据えていたのは、「未来のマーケット」だったのだ。

「今後、スマホの普及率が高まれば、モバイルファースト、モバイルオンリーの世界がやってくる」「ミレニアル世代が消費のメインストリームになれば、モノを所有するだけでなく、コトの体験にお金を払う時代がやってくる」

──こうしたメガトレンドを押さえたうえで、2008年ではなく、2013年とか2018年とかいった「将来生まれることになる市場」に照準を合わせていたのである。

もちろん、彼らはすべてを見通していたわけではない。そこにはいくつかの「追い風」があった。

たとえば、Airbnbが創業された2008年は、リーマンショックが起きた年でもある。この間接的原因となったサブプライムローン(低所得者層などを対象にした高金利の住宅ローン)などを利用し、投機目的で不動産を購入したものの、売り抜くタイミングを逸した個人は少なくなかった。

要するに、収益化のメドが立たない部屋が大量に余っていたのである。こうした状況は、間違いなく当時のAirbnbには追い風となったはずだ。
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