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しかし、周囲の人たちには、着地態勢に入ったことがわかりません。死が近いことに気づかないのです。それで「食べなきゃダメだ」と、無理にでも食べさせようとしますが、「何も食べる気がしない」とか「おいしくない」と言って、食べません。具合が悪いから食べないのではなく、自然の流れとして食べなくなっているのですが、周囲はそれがわかりませんから、心配して病院に連れて行きます。

病院は、「食べないんです」と訴えられれば、なんとかしなければなりません。そこで、食物を細かく刻んだり、ペースト状にしたりして、まずは形態を変えて食べてもらおうとします。食べてもらえなければ、高カロリーの輸液を点滴する。それで間に合わなければ、鼻から胃までチューブを通して栄養を入れる。それでも間に合わなければ、胃に穴を開けて胃瘻を作り、胃に直接栄養を入れる。このようにして、栄養が摂れない状態をなんとか阻止しようとするのです。

栄養を入れれば、”餓死”はまぬがれます。とはいえ、着地態勢に入った人がもう一度元気になって歩けるようになる、走れるようになる、ということではありません。数カ月、あるいは数年という単位で寿命が延びることはありますが、その間ベッドを降りて自由に動けるか、何か楽しいことができるかといえば、難しいかもしれません。一旦着地態勢に入った人は、何をしても着地に向かって高度を下げていくものです。

もちろん、まだ着地態勢に入っていない人の場合は、胃瘻を作って栄養を入れることが無駄ではありません。回復して元気になり、胃瘻を外せる人もいます。しかし、そのようなケースは基本的に何らかの病気で、治療の一環としての胃瘻です。それまでと特に変わったことがないのに食が細くなった、というようなケースとは異なります。

3. 眠くなり、夢を見ながらうつらうつらとする


この時期にはまた、よく眠るようになります。昼も夜もなく、うつらうつらと眠っているのを見ると、家族はまた心配になります。眠ってばかりいると、体も頭も鈍ってしまうような気がするからです。それで、無理にでも起こして「趣味の集まりにでも行ってきたら」などと言いますが、出かける気配はありません。

夫も、この時期にはよく眠っていました。本人としては、「あまり寝てばかりいてはいけない」という気持ちがあったのでしょう、よく私に許可を求めてきました。「寝てもいいですか?」と。「どうぞ寝てください」と答えていましたが、このときはまだ「余命3カ月を切った」とは思っていませんでしたから、単純に「体が睡眠を欲しているのだろう」と思っていただけです。

この頃の眠りは、熟睡ではなく浅く、夢をたくさん見ているようです。夫もたくさん夢を見ていましたが、病棟の看護師をしていた頃も、患者さんからよく「夢を見ていた」と聞きました。

起きているときに、興味が内に向いて昔話をよくするのと同様、うつらうつらとした意識の中でも、これまでのことを思い出し、人生を整理しているのかもしれません。

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