尾原:アリババの動きをはじめ、非常時こそ企業のブランドイメージを向上させる「好機」と捉えることもできますよね。中国ではアリババとテンセントが二大巨頭ですが、各社はどういった動きを見せているのでしょうか?
黄:近ごろの感染症対策では、アリババとテンセントの間に「明暗」が別れています。印象をよくしたのはアリババ。先述したデジタルの外出許可証もありますが、彼らが注力している生鮮EC「盒馬鮮生(フーマフレッシュ)」が、外出自粛が指示されるなかで強烈に支持され始めていて。特にEC上で生鮮食品を買うことに抵抗のあった50〜60代が使用しはじめたことで、アリババの評価が上がっていると感じています。
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逆に評価を下げてしまったのがテンセント。彼らは情報が正しいかデマかを判断するサイトを立ち上げたのですが、あまりに情報が多すぎて、全てをキャッチアップできたわけではなく、あまり利便性が高くなかった。日本国内のSNSでは「さすがテンセントだ」という反応も多かったのですが、中国国内ではあまり評価を受けなかったんです。
中国に存在するビジネスチャンス──すでに騒動後の「初動」を仕込む企業も
藤井:「盒馬鮮生(フーマフレッシュ)」などのデリバリーフードサービスに注文が殺到するなかで、盛り上がりを見せる産業がワークシェアリングです。現在、中国では他の地域に移動されることが制限されているのですが、その影響で出勤できない人びとに対し、マンパワーの足りないデリバリー業者が一時的に雇用することを発表しています。
尾原:なるほど。非常時に企業がリードし、国家が後追いでフォローアップしていく事例が中国を中心に増えていますよね。台湾でも、マスクが置いてある薬局を可視化するアプリが民間で開発され普及するなど、ボトムアップでの対策が散見されました。こうしたスピード感のある対策には、どういった背景があるのでしょうか。
藤井:やってはいけないことを先に決める「ブラックリスト方式」の考え方が、中台のスピード感を下支えしていると感じています。中国では有事の際、基本的に新しいことはなんでもやってOK。ですが、企業が力を持ちすぎたりするとストップがかかる方式です。
反面、日本はやっていいことを先に決める「ホワイトリスト方式」のため、企業が先に動くことができない。「まずやってみよう」で動けないのが、スピード感の差を生み出していると感じています。