この春は近場の「いいホテル」で舌鼓。ステイケーションのすすめ

アマン東京「アルヴァ」にて。旬のメバルと筍のグリル、松の実とアンチョビのオリジナルソース。


マンダリン オリエンタル 東京


「センス・オブ・プレイス=立地する土地柄と文化に敬意を表するホテルづくり」。それが、マンダリン オリエンタルのスタイルだ。

日本唯一のホテルがあるのは、江戸の中心であった日本橋という場所柄。去年改装を終えて、デザインコンセプト「森と水」の成長・成熟をテーマにゴールドやオレンジ、ダークパープルをアクセントにした、柔らかな印象に生まれ変わった。

日本の美を象徴するアンシンメトリーなインテリア配置、ファブリックは著名なテキスタイルデザイナー須藤玲子氏によるもので、ヘッドボードには群馬県桐生市の打掛職人による見事な手刺繍が施され、静岡県駿河市の職人による繊細な竹ひごの技術を用いたオリジナル照明が置かれているなど、そこここに、全国各地の卓越した職人による手仕事が散りばめられている。



フレンチダイニング「シグネチャー」に就任したルーク・アームストロングシェフも、生み出しているのは程よい食後感の軽やかなコンテンポラリーフレンチだが、その根底に、フランス料理らしいクラッシックな職人技を保ち続ける若き職人の一人だ。

今多くのレストランで行われている真空低温調理は基本的に行わず、昔ながらのアナログな火入れにこだわる。席数72という大きなレストランでそれが可能なのは、良いチームが出来ている証拠でもあるだろう。

シンガポール「バッカナリア」の料理長として、同国最年少でミシュラン1ツ星を獲得、豊かな食文化に魅せられて日本へ。同じく1ツ星のシグネチャーを引き継いでいる。

トリュフや鳩など、代替不可能なものを除いて、使用するのは基本的には日本の食材だ。春が旬のアスパラガスも日本産で、「日本でしか食べられないフランス料理」を体現すべく、日本の食材で、土地を表現していく。

「同じ食材でも、複数の産地を取り寄せてまずは比較して味を見る。春は個人的にも好きな芽吹きの時期。山菜の苦味というのは、自分にとって新しい味で、うまくアクセントに使っていきたい」という。


まさに職人技と言うべき、極薄のシュガーボールに、日本の甘いイチゴ、ルビーチョコレートと軽やかな豆乳のエスプーマを閉じ込めた。

天然のアマダイの水分を抜くため数日間エイジングし、フライパンで鱗をカリカリにしてから、高温のオーブンで仕上げる。ウェルダンに火が通ったカリカリでジューシーな腹身を手前に、奥にしっとりとミキュイに仕上げた身を置いた。


アマダイの骨やアラから取った出汁とほうれん草のピュレ、そしてバターソースで和えた季節のグリーンピースとアサツキ。「日本の若いグリーンピースの甘さは格段」だという。

遠出をしなくても、いつもの行動範囲の中で、無理せずふと立ち寄れる、癒しの空間。さらに、どのホテルも食に力を入れているのが特徴だ。良いニュースがあまり聞かれない今だからこそ、季節を感じ、ゆったり過ごす、そんなひと時が必要なのかもしれない。

文=仲山今日子

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