この春は近場の「いいホテル」で舌鼓。ステイケーションのすすめ

アマン東京「アルヴァ」にて。旬のメバルと筍のグリル、松の実とアンチョビのオリジナルソース。


星のや東京


柔らかな繭の中に包まれているような、旅館らしいしっとりとした和の風情が魅力なのが「星のや東京」だ。

「塔の日本旅館」というコンセプト通り、到着するとまずは靴を預け、畳の感触を楽しみながらロビーへ向かう。客室に至るエレベーターも、そして客室も全て畳敷。部屋には障子があり、重心の低い畳ソファが置かれるなど、日本人の心にぴったりとくるくつろぎが演出されている。

大手町で湧出した天然温泉、お茶の間をイメージしたラウンジが各階に用意されていて、旅館ならではの居心地の良さを醸し出す。



宿泊客のみ利用できるダイニングには個室もあり、他のゲストに会わずに食事をすることも可能だ。ここで腕を振るうのが、ボキューズ・ドール日本代表として、日本人初の総合3位、魚料理で世界一となった浜田統之シェフ。フランス料理の技術を生かしつつ、旅館ならではの和を感じる「Nippon キュイジーヌ」を提供している。

浜田シェフはこの1月に、「自然の近くに住み季節を感じることで、よりクリエイティブなインスピレーションを得たい」と、食材探しなどで度々訪れていた長野県に移住した。

移住後初めて作った今回のメニューは、繊細な野の花など、自然の中に住んでいるからこそ気づく季節感が盛り込まれ、一層、旅館らしい野趣と、大地の息吹を感じる喜びに満ちているように思えた。

主となる食材はどれも日本の春を感じさせるものばかり。フランス料理の文脈で調理されてはいるものの、味の構成は日本人に馴染みのある味わいにもリンクし、どこかほっこりとしたくつろぎ感を感じさせる。


春が旬のホタルイカとカブ。ブーダン・ノワールをイメージした、ホタルイカの肝とふきのとうのピュレだ。通常ではなかなか見かけない、ニワトコの花が甘い香りと野趣を添える。

「食材はなるべく野山や海、自然の中にあるものを。その生命力に惹かれる」という浜田シェフの視点は、「高級魚かどうか」という世間の評価ではなく、一つ一つの生き物の命そのものを見つめている。

魚の骨などを粉末状にして混ぜ込んだチュイルも「目の前にあるものを、無駄なく、大切に使う」という考えから、それは同時に、日本人が食べてきた旬の食材を生かした料理、「Nippon キュイジーヌ」につながっていく。


人間が感じる「五味」を象徴する味を一つずつ連ねた、シグネチャーの5つの意思も、季節に合わせて、桜海老のスープや、あみ海老を赤ワインで煮たフィリングが入った桜餅が織り込まれていた。
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文=仲山今日子

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