日本で新型コロナが「感染爆発」しない理由

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新型コロナの感染パターン


3月9日夜、新型コロナ対策専門家会議の記者会見があり、新型コロナ対策専門家会議・尾身茂副座長が疫学的知見を発表している。

感染症が進行中の集団の、ある時点における、1人の感染者から発生した二次感染の平均の数である、「実効再生産数」について述べている部分を引用する。

「現時点において、感染者の数は増加傾向にあります。また、一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が、全国各地で相次いで報告されています。しかし、全体で見れば、これまでに国内で感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていません。また、実効再生産数は日によって変動はあるものの概ね1程度で推移しています」

新型コロナの基本再生産数は2〜3である。対して、実効再生産数は1。要するに、日本国内で感染が広がっている速さを示す実効再生産数は、現在、ウイルスの持つ感染力を示す基本再生産数を下回っているということだ。

新型コロナの感染状況をビジュアル化


実効再生産数が1ということは、10人の患者から新たに10人の二次感染患者が再生産されることになる。しかし、専門家会議は「80%が誰にも感染させていない」としている。

例えば、新型コロナウイルス感染患者が10人いたとする。そのうち8人は誰にも感染させず、2人が感染させる。


図1)新型コロナの二次感染者数の数理モデル感染者(作成=浦島充佳)。感染者(赤)非感染者(灰)二次感染者(紫あるいは水色)

図1のモデルでは、2人の患者がそれぞれ例えばライブハウスで8人、自宅で2人に感染させている。


図2)新型コロナの三次感染者数の数理モデル(作成=浦島充佳)。感染者(赤)非感染者(灰)二次感染者(紫あるいは水色)三次感染者(緑ないし青)

図2では、ライブハウスでの感染者の1人がライブハウスBで9人の三次感染者をだし、家族内感染の1人が職場で1人の三次感染者をだしたといった国内でありがちな仮想モデルを示した。

一旦感染すると2週間など長期にわたって咽にウイルスをもち感染力を保ったまま活動できてしまうので感染が拡大する。そのため実効再生産数が1であっても、患者数は増加し得る。


図3)一部の二次感染を避けられた例の数理モデル(作成=浦島充佳)。非感染者(灰)二次感染者(水色あるいは青)回復者(黒)

では、感染を終息に向かわせるにはどうするべきか?

図3のように、例えば2つのライブハウスでの感染をブロックできれば、10人から3人の患者しか発生しないので、やがて患者数は減っていく。

だれがウイルスをもっているか判らなく、感染力も強く、致死率が高い。このような場合で、かつ感染拡大パターンを最初に示した基本モデルで考えると、感染拡大を止めるにはどうしても外出自粛、休校、移動制限、地域封鎖となってしまう。

新型コロナの場合、確かにだれがウイルスをもっているか判らないことが、人々に大きな恐怖心を植え付けている。しかし、私達は今までの経験からクラスター(集団感染)を形成しやすい条件を知っている。それは、換気の悪い室内で、不特定多数と長時間会話したり、食事をしたときだ。
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文=浦島充佳

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