ビジネス

2020.03.20

「企業大絶滅時代」のCEOに求められること

「C3.ai」CEO トーマス・M・シーベル


デジタル変革の成功例、失敗例


──C3.aiは、企業のデジタル変革を手掛けるAIプラットフォーム・ベンチャーです。著書では、顧客である日用品・工業製品大手の米スリーエム(3M)や米建機大手キャタピラー、米空軍の事例なども紹介されています。デジタル変革が特にうまくいった事例は?

まず、イタリアの電力大手エネルを例に取ろう。同社はスマートグリッド技術による予測分析を用い、発電・電源供給の効率性と安全性を飛躍的に高めた。レジリエンス(注:環境変化や災害に対応できる回復力)も高まり、クリーンエネルギーの供給増や解約件数の減少、顧客の満足度アップ、収益増も実現した。エネルは、世界で最もAI導入度が高い企業だ。

3Mやキャタピラーは、AIを使ってサプライチェーンの「確率的最適化」を図っている。生産において、必要なときに必要な物を必要な分だけ供給するジャストインタイム・システムに基づいた、在庫を最小化するための「かんばん方式」と同じ考え方だ。

──あなたは著書の中で、「テクノロジーへの投資はデジタル変革と同じではない」というアナリストの言葉を引用しています。重要なのはIT技術の世代交代や業務プロセスの改善ではなく、企業の中核を変革することだと考える理由を教えてください。

AI導入は、設備のメンテナンスをはじめ、サプライチェーンやカスタマーサービスの管理、製品設計のやり方を変え、より低コストで製品やカスタマーサービスの質を高め、企業にも顧客にも恩恵がいくようにするためだからだ。従業員教育など、経営プロセスを抜本的に変える必要がある。

モノづくりが職人から自動生産ラインに取って代わられ、ロボットに委ねられたことで、ロボットを管理し、作業を覚え込ませる必要が生じたのと同じことだ。仕事の変化に伴い、求められるスキルも教育も変わり、従業員の士気を高める方法も変わった。

AI時代へと移行しつつある今、同様の変化が起こっている。手ごわいのは、変化により、変更管理問題が発生することだ(注:「変更管理」は、IT作業の変更で生じるリスクを最小化すること)。産業革命では、公害などの問題に対処し、物事がうまく回るようになるまで200~250年の歳月を要した。

──デジタル変革の失敗例を挙げてもらえますか。

代表的な例が、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の子会社、GEデジタルの「Predix」(プレディクス)だろう。GEはプレディクス(注:産業用IoTプラットフォーム)でデジタル変革を起こし、世界を変えようとしたが、完全な失敗に終わった。

多くの組織は、巨費を投じて特注のAIプラットフォーム構築を目指し、デジタル変革を試みるが、失敗に終わる。自社システムの構築に失敗すると、専門業者のサービスを利用するのが常だ。
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インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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