とはいえ、どんな手が「本当に有効な手段なのか」という判断は非常に難しく、加えて「政治家が本当に必要な方法を実行するのか」という懐疑は根強く残る。官僚は過去のデータに照らして有効だと思われる対策を練るのだろうが、政治家の保身や立場を加味すれば、それら手立てがしっかり選択されるかは甚だ疑わしいからだ。
ここ数年、人工知能(AI)の発展と関連し、政治家の判断の権限を機械に移譲すべきという意見が一部の学者や企業家からぽつぽつと聞こえてきていた。SFのような話にも聞こえるのだが、たしかにコロナショックのような緊急事態を経験すると、膨大なデータを一瞬で処理できるAIの方が頼もしいと思えてくる。
経済的パニックを直接的に対象にしたものではないが、米・スタンフォードセンターではそれに近しい研究が行われているとの報道もある。同センターでは、「貧困と不平等」、「経済的安定性」に関する研究および政策分析をする上で、ビッグデータと人工知能を活用している。
センター幹部はメディア取材に答え、AI×ビッグデータを有効活用することで政府が考案したプログラムの効果を予測できるとし、そのメリットとして利害や偏見を取り除いた客観的な評価を下せる点と説明。実際にプログラムが効果として現れているかどうかを迅速に判断できると付け加えている。
AI×ビッグデータはビジネスや個人の能力を強化して、競争力を高めてくれる存在として重宝されてきた。今回のコロナショックでは、その最たる存在としての金融アルゴリズムが大暴れしているはずである。
だが今回のコロナショックを通じて、少し潮目も変わっていくのではないだろか。例えば、「安定性」や「持続可能性」、もしくは「セーフティーネット」を提案・判断する「優しいAI」を求める需要が醸成されていくかもしれない。
余談だが、AIには道徳的基準が必要であると、やや“批判的”な立場を取ってきたローマ教皇も最近、安定性や持続可能性を守るAIは「良し」と発言している。大きな変化の予兆なのだろうか。社会とAIというテーマは、コロナショックを契機に大きなターニングポイントを迎えているのかもしれない。
連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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