ユーザーの心を動かすCXの仕組み──「ついやってしまう」体験のつくりかたとは?


──著書では、体験デザインの仕組みが細かく、分かりやすく言語化されていて非常に勉強になりました。例えば、スーパーマリオの場合は、マリオの向きや背景のデザインなどから、直感的にユーザーが次にとるべき行動がわかるよう設計されている、と分析されています。こういった分析をされるきっかけは何でしょう?

もともとゲームが好きなので、ゲームを遊ぶ時は常に分析しながら遊んでしまうんです。しかし、本の内容に直接つながるような深い分析を始めたのは、独立後に地方のお年寄りとのコミュニケーションの壁にぶつかった影響が大きいです。地方のお年寄りは正直ですから、こちらがどれだけ一生懸命話しても、話が面白くなければ率直につまらなそうな表情をするんです(笑)。「どうやったら私の意図が伝わるんだろう」と思っていたときに、「ゲームのようなコミュニケーションができればいいのでは」と考えたんです。そこで、ゲームの体験デザインを言語化しようと思いました。

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──次に最近のゲーム業界について聞かせてください。ゲーム機のスペックが上がったことで、さまざまな制約が取り払われました。その一方で、ゲームの複雑性が増したり、演出に比重が偏ったりして、「昔のゲームの方が面白かった」という声も聞かれます。このような状況下で、ユーザーにより良い体験を提供するには、どのようなことが必要でしょうか?

スペックが上がってゲームが豪華になること自体はまったく悪くないと思います。ただ、豪華になったとしても、スーパーマリオと同様に「関わり方がシンプル」であることが大切です。

例えば、著書でも紹介した「The Last of Us(ラスト・オブ・アス)」。人間に取りついてゾンビ化させてしまう謎の菌によって、存亡の危機に陥ったアメリカが舞台のアクションゲームです。主人公ジョエルは、感染拡大のパニックの中で、男手ひとつで育ててきた娘を失ってしまうんですが、彼はある日、菌への耐性を持つ1人の少女エリーと出会い、終末を迎えつつある世界を旅することになります。

グラフィックも非常に素晴らしく、プレイヤーの演技も挙動もリアルに近いゲームなのですが、プレイ自体は複雑ではありません。状況を説明するナレーターもいませんが、映像とセリフからなんとなくプレイヤーが何をすればいいかがわかる。ストーリー自体も、いろんな登場人物は出てきますが、一言で「主人公のおじさんと少女の旅の話」と言えてしまうほどです。

──たしかに私もラスト・オブ・アスをプレイしたことがありますが、ストーリーを進めていく中で、ゲームとの関わり方を自然と理解していく感覚がありました。

まったくです! プレイヤーがストーリーの流れや本質に自分で気づくことが、ゲームを面白いと感じてもらうことにつながります。先ほども述べたように、面白さとは作り手があれこれ指示を出すのではなく、プレイヤーの心から湧いてくるもの。プレイヤーの心はいつだって面白くなりたがっていて、それを助けるのがコンテンツ、あくまでそういう役割なんです。ユーザを扇動するのではなく、「面白がろうとするユーザーの本能」を信じなければいけません。
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ライター=藤原梨香 編集=庄司智昭 写真=廣田達也

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