ビジネス

2020.03.23

どん底の下請け屋根屋からアフリカの救世主へ転生した男

第3回「スモール・ジャイアンツ アワード」グランプリに輝いた川口スチール工業の川口信弘代表取締役


フロンガスという言葉がニュースを通して一般的になり始めたのは1980年代後半からだ。オゾン層を破壊し、地球温暖化の原因として、90年以降、規制する法律が世界ででき始めた。

「これからは環境ビジネスが絶対にくる」

97年の京都議定書など、ニュースを見るたびに川口はそう確信していたというが、似た話を筆者は聞いたことがある。世界一のモーター企業を一代で築いた、日本電産の名物経営者、永守重信を取材したときだ。

永守も90年ごろに「将来、自動車はEV車になる」と予測して、相次ぐ買収とシナジーの戦略を立てた。その根拠を、彼は開口一番「地球環境問題です」と即答したのである。化石燃料から電気に代わり、ロボットやEVの時代にモーターの需要が爆発的に増えると見たのだ。

一方、川口には疑問があった。大気汚染や温暖化からエネルギーが重要課題になる。しかし、太陽光発電はなぜ住宅用だけなのか。民家の屋根では発電量はたかが知れている。

調べると、太陽光パネルは1m²当たりの重さが30kg。また、太陽光を受けるために、設置に30度の傾斜を必要とした。この重さでは川口が専門とする産業用の大型屋根には積載できない。

そこで彼は決意した。「産業用屋根の太陽光発電システムを開発しよう」と。〈屋根×環境〉のプロジェクトである。下請け業態から脱却しないと会社が持続しないという切羽詰まった状況も、背中をドンと押した。


軽量薄型で自在に曲げられるフィルム型ソーラーは、細い木や電柱でも設置できる

日本だけでなくシリコンバレーのベンチャー企業も含めて、太陽光電池の会社を探すうちに、太陽電池メーカーのフィルム型パネルと出会った。折しもリーマンショックで建設業界が真っ暗になるなか、社運を懸けて研究を重ねた。こうして2010年、パネル一体型の「フィルム型ソーラー」が完成した。厚さ1ミリの超軽量、シート状で曲げることができる画期的なものだ。

「屋根賃貸モデル」という仕組みも打ち出した。建物のオーナーの費用負担を減らすため、屋根を借りて、電気を電力会社や施設主に買い取ってもらうのだ。当然、マスコミは飛びついた。ところが、この挑戦は失敗に終わる。

「革新的やけど、大量生産できんからコストを回収できんのよ。問い合わせだけは多かったけどね」
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文=藤吉雅春 写真=佐々木 康 スタイリング=堀口和貢 ヘア&メイクアップ=AKINO@Liano Hair(3rd)

この記事は 「Forbes JAPAN 5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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