前回解説したように「経済圏」競争が激化するなかで、企業は、消費者への理解を深め、消費行動のあらゆる接点で利用されるべく、スマートフォンやウェアラブルデバイスからのデータを収集します。
消費者が持ち歩くようなパーソナルデバイスのみならず、さまざまな場所に設置されるカメラやセンサーでも、消費者のデータを吸い上げることになるでしょう。
すると、消費者のデータが集約される企業には、これまで以上に情報セキュリティの徹底が求められることになります。そして、人々のプライバシーをいかに確保するかが、社会にとって重要な課題となります。
規制と活用が並行して行われる
欧州では「EU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation, GDPR)」が適用されるなど、個人情報保護の厳格化は、世界的な潮流となってきています。
わが国でも、2005年に個人情報保護法が施行され、2017年からは改正法となっていますが、今年さらなる改正が予定されています。
個人情報を含めた、個人に紐づくさまざまなデータは「パーソナルデータ」と呼ばれていますが、これらのうち保護すべき個人情報を定義し、その取り扱いを規定する仕組みの整備が世界的にも進んでいるということです。
経済圏競争では、企業は、自社の「スーパーアプリ」を消費者に便利で心地よいと思ってもらい、習慣的に利用してもらうことが勝利の鍵になります。そのためには、消費者1人1人の生活圏やライフスタイルを踏まえて、1to1で適切な情報提供を行うこと、つまりパーソナライズの精度を高めることが重要です。
パーソナライズの高度化には、当然パーソナルデータの収集と活用が必要なわけですが、これらの「規制」と「活用」が並行して検討される状況は矛盾するように思えるかもしれません。しかし、規制の厳格化は、データの利用を抑制するものではなく、あくまでルールを明確にしたうえで活用につなげることを意味しています。
具体的には、活用されるデータの目的を明確にし、本人の同意無しに使われないよう徹底し、管理する権利を本人に帰属させるというものです。「データを有する企業がよりアクセルを踏めるよう、ブレーキを強化している」と捉えることもできるでしょう。
現実空間の制約が重要になる
では、パーソナルデータに対する消費者の受け取り方はどうでしょうか。
日本の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、2010年に「eIDに対するセキュリティとプライバシに関するリスク認知と受容性の調査報告」を公開していますが、そのなかで「インターネットは、十分に安全で、個人の詳細をオンラインで伝えても十分快適である」と回答したのは全体の3%だったという報告がなされています。
2010年当時は、まだ社会全体がインターネットに対する不信感やプライバシーへの不安を抱いていたといえるでしょう。