膨大なパーソナルデータを「活用しながら規制」する? 社会的視点から#読む5G

サムネイルデザイン=高田尚弥


一方、2017年に野村総合研究所は、「『情報銀行』に関する意識調査」を行っていますが、そこではレコメンドの精度向上のサービスを、4割程度の消費者が利用したいと答えています。

また、パーソナルデータを提供する対価として、金銭やポイントといった便益を提示すると受け入れやすいことや、パーソナルデータのなかでも「位置情報」は提供したくないのに対し、購買履歴や体重や歩数といった「健康情報」の提供には抵抗感が少ない傾向がわかっています。

個人情報保護法やその改正によって、パーソナルデータがきちんと取り扱われるようになったことによる安心感と、それらを活用したサービスの便益が増していることが、社会のプライバシーの捉え方を変えてきたと考えられます。

5G時代には、膨大な量、多様な質のパーソナルデータが生み出されることになります。その活用も進んでいますが、万が一事故が発生すれば、その事故を起こした企業への信頼が失墜するだけでなく、社会のパーソナルデータ活用に対する受容性を著しく低下させることになるでしょう。

5Gでは「エッジコンピューティング」という処理を実装しやすくなります。エッジコンピューティングとは、端末の近くにサーバを分散配置することにより、システムへの負荷や通信遅延を軽減する方法のこと。

例えば、小売店で不審行動者を発見したいと考えた場合、今までは、店の内部をカメラで撮影し、その映像をサーバに送信して画像処理し、不審な行動を検知した場合に店長に通知する、という手順でした。ところが、5Gでは、インターネットを通じてクラウドに映像を伝送するのではなく、カメラを設置した場所の近傍にサーバを置いて画像処理し、「不審行動を検知した」という情報だけをインターネットを経由して店長に通知するイメージに変わります。

店内の撮影映像には、来店者の顔やどんな商品を購入したかといったパーソナルデータが記録されますが、このように処理すれば、そのようなデータがインターネットに流れることはありません。大容量の映像データを通信する必要がないというだけでなく、個人情報漏洩のリスクを最小限にすることができます。

前回の記事では、大企業による経済圏競争も、消費者の生活圏のサイズでビジネスを設計する必要があると述べました。パーソナルデータを取り扱うリスクの管理の観点からも、ネットワークを店舗などの限定的な空間で設計することが有効であるということです。

インターネットの世界では現実空間の制約がありませんし、それがグローバルなプラットフォーマーを生み出したわけですが、5G時代はこのように、現実空間の制約がビジネス設計やリスクマネジメントの観点で重要になると予想されます。


亀井卓也
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文=亀井卓也

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