長い時間を共有するからこそ、価値観や世界観をより濃く
チェックインからチェックアウトまで続く、一泊二日からの「生活」を提供する宿泊業。さまざまな宿泊体験を提供する施設が生まれる中、INN THE PARKは公園のもつおおらかさに着目し、それと宿泊とを掛け合わせ価値を見いだした。
では、公園と掛け合わされた“宿泊施設であること”にはどのような意味があると考えているのだろうか。インタビューの最後、宿泊施設だからこそ提供できる体験価値について、山家氏はこう話す。
「宿泊業は、1泊2日以上の長い時間をお客さまと共有します。その長さこそが、私は宿泊施設の価値だと考えています。例えば、当館では素泊まりプランを作っていません。というのも、ここに籠もってもらいたいからなんです。夕暮れから暗闇になり、眩しい朝の光で目覚めるという自然の移ろいは、長く滞在するからこそ体験できる。
そのために、球体テントのように部屋自体にも多様な仕掛けや楽しめるポイントを用意しています。食事も、夜にはシェフが地元の食材を使った夕食を提供。朝にはサンドイッチのセットをテイクアウトして公園内のお気に入りの場所で食べられます。
私たちの提供しているものは、いずれもおおらかさを体現しつつ、お客さまに寄り添うもの。私たちが提供する価値はわかりやすいものではない部分もありますが、共有する時間が長ければ長いほど、提供する機会は増えていく。提供したい価値観や世界観が明確なほど、宿泊施設はそれが濃密に伝わっていくんです」
公園と宿という新しい組み合わせによって生まれた、INN THE PARK。公園のもつおおらかさに軸足を置きながら、宿泊施設としての意味を掛け合わせ、独特の非日常を宿泊者へと提供している。
一方、このように振り切った組み合わせを成立させるためには、その調和、つまり両者のバランスが重要になる。この調和に必要なものこそが、山家氏が繰り返し強調した「おおらかさ」であるのかもしれない。