キーワードは「おおらかさ」──業界未経験だからこそ気づけた、公園の新たな可能性

INN THE PARK 支配人 山家渉氏


大人の体験に比重を置いた結果、ファミリーだけでなく、20代前半〜中頃の女性グループの利用も多いという。森の中の球体テントは、アウトドア感あふれる見た目ながら、中にはエアコンが設置されるなど快適さも担保されている。また、食事にも力を入れていることもあり、アウトドア感を体験しつつ、キャンプほど不便さや手間はない。そのバランスが若い女性の支持を集めているのだ。

「SNSを中心に球体テントが話題になったことで、『このテントに泊まりたい』と、訪れていただける機会が増えました。あのテントは『映える』だけでなく、快適性もありますし、ふわりと揺れる感覚や、森を眺められる窓など、独自の体験を提供できる。一度体験いただければ、見た目だけではない価値を見いだしてくれているように思います」

おおらかさという言葉のもと、使う人が使い方を自由に決められるINN THE PARK。しかし、手放しに「自由にしていい」と言われても、困るゲストも少なくない。どこまでその余白を残すかはINN THE PARKが提供する体験の肝ともいえるだろう。山家氏自身「試行錯誤が続いている」というが、現状は一つだけ明確な方針を掲げている。

null

「お客さまの『こう過ごしたい』に沿った『お手伝い』ができるようにしています。体を動かして遊びたい人には外遊びに道具を貸せるように。昼寝してゆっくり過ごしたい人には静かな場所を提供できるように。準備はしておきつつ、お客さまの要望があるときに提供する。

昔は、『どう過ごしてもらっても大丈夫ですよ』と手放しにしていた時期もありますし、『こういう過ごし方がありますよ』とさまざまな提案を押し売りのようにしていた時期もありました。ただ、どちらであっても、心地よいと感じる方もいれば、困った顔をする方もいる。現時点では、『お客さまの過ごし方に寄り添う』という今の方針が最適解だと考えています」

宿泊者のニーズは多様だ。それを特定の型にはめて提供していくことは、同館の掲げる“おおらかさ”とは反するともいえる。

外遊びをしたいゲストには、多様な遊び道具を貸し出す。ゆったりと過ごしたいゲストには、ラグやエアソファを貸し出して公園でのんびりしてもらう。室内で遊べるボードゲームもあれば、テイクアウトしたコーヒーやビールを片手に公園を散歩してもいい。

「施設の共用部も公園も、お客さまの過ごしたいように過ごしていただきたい。そのための準備だけは入念にしています。当館では、サロンカフェのソファで昼寝している人もいます。一般の宿泊施設ではあまり見ない景色だと思いますが、公園の延長として施設があるので、それも楽しみ方のひとつだと思っています」

null
陽が潤沢に入り、気持ちのいいラウンジ
次ページ > 価値観や世界観をより濃く

文・取材/葛原信太郎 編集/小山和之 撮影/須古恵

ForbesBrandVoice

人気記事