キーワードは「おおらかさ」──業界未経験だからこそ気づけた、公園の新たな可能性

INN THE PARK 支配人 山家渉氏

※この記事は、2020年1月にXDで公開されたものを転載しております。

「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせである」

名著「アイデアのつくり方」の中で、ジェームス W.ヤングはこのように語っている。

静岡県沼津市にある、泊まれる公園「INN THE PARK」は、「公園」と「宿」という慣れ親しんだ2つの要素を組み合わせ、新しい「体験」を生み出している。ここでは、代々木公園に匹敵する約600,000㎡もの広大な公園に、球体のテントやセルフリノベーションした宿泊棟が用意されている。敷地内にはカフェ・ラウンジもあり、夕食・朝食とも地元の食材を活かして、シェフが腕を振るうという。

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提供:INN THE PARK

運営するのは、リノベーションや街づくりを得意とする設計事務所「Open A」の子会社、「インザパーク」だ。同社に所属する山家渉氏は、現場責任者として施設の立ち上げから携わり、支配人を経て、現在は副支配人、広報、行政協議など多岐にわたる業務を務めている。オープンして2年、試行錯誤を続けながら「INN THE PARKらしい宿泊体験が少しずつ見てきた」という山家氏に、この施設が目指す体験の輪郭を伺った。

突然始まった宿泊業。経験ゼロの支配人の葛藤


INN THE PARKのプロジェクトは、コンペから始まった。この施設は元々、利用者が減り赤字経営だった「少年自然の家」だったのだ。沼津市は施設の活用と運営を民間委託するために、コンペを開催し、Open Aが選ばれた。

「Open Aは、建築設計を基軸としながらリノベーション、公共空間の再生、地方都市の再生、本やメディアの編集・制作をおこなっている会社です。宿泊施設の運営実績はありませんでした。そんな私たちがコンペに応募したくなるほど、ここは明らかにポテンシャルの高い場所だったんです。デザイン性の高い建物、広大な芝生や森、車でも電車でも首都圏からスムーズなアクセス。プランが良ければ、かなりおもしろい施設にできると考えました」

このとき、プロジェクトチームが考えたコンセプトが「泊まれる公園」だった。公園に禁止事項が増えていき、自由さが失われていく現代において、もっと自由に使える公園があってもいいのではないか。ここならば、自分たちの理想とする公園がつくれるかもしれない。そんなアイデアが、沼津市に見事に刺さったという。

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「当時、私はOpen Aのインターンでした。コンペのことは知っていたものの、少し手伝った程度。上司から『どう?やってみない?』と言われ、翌日には上司と沼津市役所に向かっていました。『彼が住み込みます』と紹介されて、ここでの仕事が突然はじまったんです(笑)」

大学では建築学科でランドスケープデザインを専攻した山家氏。いうまでもなく、宿泊業は未経験。当初は、試行錯誤の連続だった。ただ、「それが功を奏した部分もある」と山家氏は考える。

「僕はこの施設に対して、公園の新しい活用方法としての興味を持っていました。『宿泊施設』や『泊まること』に、特別な想いや原体験はないんです。だからこそ、宿泊施設としての“あるべき姿”にとらわれず、お客さまの反応をよく観察し、自分たちが提供すべきものをゼロから考えられた。それが今のINN THE PARKの体験にもつながっています」

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文・取材/葛原信太郎 編集/小山和之 撮影/須古恵

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