前例主義を打ち破れ。「つなげる公務員」が地域を動かす

クロスセクターのまちづくり「渋谷をつなげる30人」


しかし現実に目を向けると、それらの役割を果たすにはまだまだ課題がある。具体的には、「企業や団体とのフラットな関係を構築する機会」「行政の役割や強みを客観的に認識する機会」「部署横断での横串プロジェクトを起案する機会」が足りていないように思う。

以下では、それらの課題をふまえ、公務員の力を開花させていくために「渋30」で工夫してきたポイントを紹介したい。

「対話」できる関係をつくる


「渋谷をつなげる30人」では、参加者の“つなげる力”を高めるため、ファシリテーション研修を行っており、ファシリテーションが何たるかを学んだのち、月1回の集りで実践しながらスキルを身につけていく。

その実践とは、30人ぞれぞれが自分の仕事や地域への想いをシェアしていくというもので、そうすることで、所属や肩書でしか認識していなかったメンバーが、学生時代の同級生のような関係性になっていくのだ。

例えば、プログラム始動時は「行政の人なら何かやってくれるはず」と期待をしていた他セクターのメンバーが、回を重ねるにつれ、そう簡単に行政の予算が降りないこと、行政内にも事情があることを理解し、「お互い頑張ろう!」と肩を叩きあう関係になるという具合だ。

まちづくりにおいては、こうして30人全体で「行政に任せるだけではいけないんだ」「我々が行政を理解し、行政の良さを引き出していく必要があるんだ」と、スタート時点で行政への期待値を合わせていくことが重要になる。



例えば、2018年の「渋30」で落書き消しプロジェクトに取り組んだとき、その中心的役割を果たした渋谷区役所環境政策課の職員Mさんは、自身が直接の落書き問題担当ではなく、相当悩んでいた。

しかし、メンバーとの対話を経て、行政としてどのような支援が可能か、そして行政として取り組む意義は何かを模索。その結果、落書き問題を担当している隣の係や他の部署に相談し、区として目指している「渋谷区環境基本計画2018」の一部として推進していくというヒントを得ることができた。

このように、行政として目指していることと民間がやりたいこと、両面の想いを翻訳者となってつなぎ合わせることで、相互理解を深め、協働に向けた足並みを整えることが、大事な役割の一つである。
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文=加生健太朗

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